短時間焙煎➀
2021/01/04
【短時間焙煎】
現在、スペシャルティコーヒーの焙煎を標榜するほとんどの焙煎業者が採用している焙煎メソドです。
、、というより、焙煎の定番のようなメソドであって、何もスペシャルティに特化した焙煎ではなく、ごく一般的な焙煎メソドです。
1990年代の後半、アメリカのセカンドウェーブのスペシャルテイコーヒーロースターの焙煎ノウハウが伝播しだしたとき、ピーツやスタバの、あの深い焙煎をものの12分~15分内で焙煎を終了しているという、驚きを”高温短時間焙煎”と呼称しました。
当時の僕たちは、国産の小型焙煎機で中煎りを15分~18分前後に収めるのが精いっぱいでしたので、そのような呼称になりました。「これがスペシャルティコーヒーの焙煎ノウハウだ!」と当時は感動しました。
しかし、実は昔から、我が国においても真っ当な焙煎業者も実践していたノウハウです。
結果として、我が国の閉鎖的な業界に風穴を開けたのはまさに黒船ならぬ、アメリカのスペシャルティコーヒーだったわけです。
プロバットを代表とする、熱カロリーが高く排気効率が良い、温度管理がキッチリとできる中・大型の焙煎機に、比較的少量の豆を投入することでこの焙煎ノウハウは真価を発揮します。

(このプロファイルをトレースする場合、豆の表面温度を計測する温度センサーの設置位置が極めて重要です。以前のブログをご参照ください。)
イメージとしては上のプロファイルの様に、過度にならない程度に強い火力で一気に焼き上げるイメージです。14分で豆の表面温度が207℃で終了するフルシティローストです。
投入からボトムまで落ち込んだ豆の表面温度を、強い火力で一気に押し上げながら、水分を抜いていき、大まかに水が抜けて成分進化の段階に至るころファーストクラックが始まりますが、その手前くらいから火力を抑えて余熱で煎っていきます。
具体的には、投入から1分~1分30秒くらいにボトムに落ちたら、豆の表面温度がそこから一気に駆け上がって、投入から7分頃には豆の表面温度が167℃前後に至り、9分に182℃、10分に187℃、11分に192℃、12分197℃、13分202℃、14分207℃、そして投入から15分で212℃に至るペースがポイントです。
投入から7分で167℃に至って、8分に176℃、9分に182℃に至る頃が水抜けの後半と成分進化の前半が重なり合う頃で、そこから1分ごとに5度上昇させることが成分進化を適正にするペースになります。
強い火力で水分を飛ばしていくことは、豆の表面から強引に水分を抜いていくことで、結果として豆の芯に水分を残したまま終了してしまうリスクが甚だ大くなりますが、固く閉ざした生豆の組織をこじ開け、水分を飛ばし、焙煎時間の制約内に焙煎を完了させ、なおかつ結果として水抜けと成分進化が完了しているという条件をクリアーするためには、このペースが必然となります。
デザインの黄金比のごとく、水抜けと成分進化を完成させた焙煎の黄金比のペースといってもかまいません。
このペースで焙煎しても水抜けが悪いカップなら、焙煎機の容量や火力に対して投入量が多いためで、投入量を減らすことによって、水抜けは向上しカップは向上します。投入量を減らしながらカップを検証していけば、その焙煎機の容量にピッタリの投入量を導くことが出来ます。
また、投入量をそのまま維持して、焙煎時間を延長することによっても水抜けは改善されますが、水抜けや成分進化の次元だけではなく、焙煎時間そのものもカップを左右するため、時間の延長はお勧めできません。15分以上の焙煎のカップは暗くなって、爽やかさやが欠けてきます。
減らした投入量に応じて、投入温度も落として投入します。最下位のボトムと7分後の豆の表面温度が167度前後とするのがポイントで、そのままグラフの豆の表面温度のラインをトレースできればOKです。
焙煎はあくまでも豆の表面温度の進行を管理するのがその本質です。排気温(釜の内部温度)の進行管理は豆の表面温度の進行を管理する手段にすぎませんので、その時の状況に応じて臨機応変に対応します。
うまくいかない場合は、投入温度と初期の火力を調節することによって何回かトライすれば同じラインをトレースすることが出来るようになります。諦めずにトライしてください。
僕の改良型の国産焙煎機(フジ5㎏)に生豆2Kgを投入して焙煎したものを厳密にカップをしていくと、14分207℃のフルシティから15分212℃のフレンチのカップは素晴らしく再現されます。
ところが、10分187℃・11分192℃・12分197℃・13分202℃のライト・シナモン・ミディアム・ハイはレスクリーンでアフターが悪くなります。
この結果、同じ投入量で時間が短い浅煎りや中煎りの領域ではまだ水抜けが不完全であること、そして時間が延びる深煎りではカップが良くなるになることから、水抜けは前半だけではなく、後半の成分進化の過程も含めて終了までの焙煎の全領域でなされていると判断できます。
先ほどの深煎りと同じように、投入量を減らしていって、カップを繰り返せばそれぞれの焙煎度に応じたベストな投入量を導き出せますが、ここでも焙煎の時間がカップにもたらす影響が出てきます。
焙煎時間が15分を過ぎていくと、爽やかさや明るさがスポイルされて暗くように、今度は逆に焙煎時間が15分から短くなっていくと、明るさやフレバーが際立ってくる反面、ストラクチャが欠けてフラットになっていきます。
余韻・奥行きのある立体的なカップから平坦なカップになってくるわけですが、その反面明るさや爽やかさ、そしてフレバーの印象はよりシャープに際立ってきます。
しかし、水抜きがある程度できた短い焙煎時間の浅煎りは、最初の印象度は強くインパクトはありますが、いくら何でも、これでもか!といった強い印象の強いカップで、カッピング評価に適していても、毎日飲む通常の飲料としては失格です。
この結果から、投入量はそのままで、焙煎時間を延長していった方がカップはより好ましく向上していきます。
短時間の浅煎りの、明るさ・爽やかさ・フレバーもスポイルされず、かつ落ち着いた完熟味を再現できる14~15分の浅煎りの方が断然魅力を感じます。
ロースティングプロファイルからの浅煎りは焙煎時間が短く、深煎りは焙煎時間が長いという暗黙の思い込みが、浅煎りや中煎りは時間延長によってカップが向上するということになかなかたどり着けなかった原因であったわけです。
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以上、通常の短時間焙煎のプロファイルを示し、その実践をいろいろ試みてみましたが、この短時間焙煎の最大の欠点はクリーンと成分進化が実現できても、マウスフィールが歪であるという不思議な欠点があります。
クリーンなのにマウスフィールが悪い???
これは、水抜けや成分進化が適正になされても、短時間焙煎が投入の初期段階から、強引な火力によって焙煎を進行していくがために、水が抜ける前に、”豆の表面焼け”の欠点がカップに現れてくるからです。
このような現象が起こるのは、