スペシャルティコーヒーの伝道

P10208211_4 去る11月5日に、日本福祉大学付属高校にて開催された公開土曜講座に、講師として参加した。

店の常連さんの付属高校の先生から、僕のコーヒー教室を公開講座で開催してくれないかという依頼があり、快く請けさせていただいた。

コーヒー教室はもちろんセールスプロモーションなしの、啓蒙活動の一環として継続して活動しているが、営業につながることを期待していないといえば嘘になる。

ペーパーと金属フィルターの違いとか、スペシャルティーとコモディティーの違いを、抽出とカップの実践で実感していただくことをコーヒー教室のメインイベントにすれば、商品との関連が結び付き、受講生に商品を刷り込みすることが出来る。

しかし、今回は場所柄、セールストークはご法度だ。あくまでも“スペシャルティコーヒーの素晴らしさをお伝えする”という基本姿勢で、真摯に語ることを心掛けた。

P10208201 さて、今回は家庭科室などの調理施設ではなく、文字どうり教室での講義になった。

そのため、抽出やカッピングは制約されるため、講義を主体にして、最後に、各生産国の代表的なシングルオリジンをカップして実感していただくことにした。

講義は栽培からパーチメントに至るまでの過程を、SCAJの出版書“多様性の祝祭”を活用しながら講義したが、各要所で生産国・生産者の状況や環境問題を出来るだけ関連付けることを心がけた。

レインフォレストアライアンスやバードフレンドリーのサスティナブル関連の認証制度はそのロゴマークと共に認知度が高まってきつつあるので、講義の最後に説明し、フェアトレードとの基本的な違いも言及した。

最後に、生産各国のシングルオリジンの浅煎り、中煎り、深煎りをカッピングしていただき、各自の思い込みを修正して、好みのコーヒーを再発見して頂いた。

お手伝いのPTAのお母様方に実際に豆を挽いていただき、グラスに粉を入れ、お湯を注ぐだけの簡単な作業だが、それだけでも産地別の香味の大きな違いを感じていただけたと思う。

フレバーの特性と、甘さ、滑らかさ、アフターの余韻をカップごとに実感として感じ取ることが出来ることで、大いに納得いただけたと思う。

結果として、僕の店舗や商品の説明まで求められ、商品リストを持ってこなかったことを悔やんだ。

スペシャルティコーヒーはまさに伝道であることを実感する。

真の伝道師は自らの教義によって、衆生を救済することを使命としているのであり、信者を増やすことが目的ではない。衆生は救済されることによって、結果として信者の道を選ぶのに過ぎない。

スペシャルティコーヒーの真の伝道が、結果として売上につながるのである。

ローストマスターズチャンピオンシップ 2011 Ⅲ

Rmc2011_2  どの分野においても、流れの方向はその主流のオピニオンリーダーによって作られる。そこに多くの支流が集まって、うねりを作り、より大きな流れとなる。

しかし、その主流もやがて淀み、混沌とした状況に至る。

そして、混沌とした淀みの中から,また新たな流れが生まれだす。

新たな方向を示すオピニオンリーダーが現れ、それに引き寄せられように流れが収束してくるからだ。

時代の変転はいつもそのようにして繰り返す。

短時間焙煎の流れが大きなうねりとなって、主流になったエポックメーキングは09年のポール・ソンガー氏のACEセミナーだろうか・・・・。

それまで断片的に見聞して、模索されてきたアメリカのスペシャルティコーヒーロースターの短時間焙煎を、氏は具体的に時間と温度で開示した。

あっという間に情報は巷に伝わり、大きなうねりとなった。

緒に付いたばかりの日本のスペシャルティコーヒーがようやく自立して歩みだした頃、混沌としていた焙煎の流れが、収束して、いっきに同じ方向に流れ出した感があった。

そして、短時間焙煎の流れは大きなうねりとなって、時代を席巻した。

しかし、やがてその流れも淀みだし、淀みは混沌となり、あらたな流れが模索されだす。

そこには新たな流れが胎動しだし、個々の流れが引きよせられるように収束しだした。

*****************************************

P10208141_6

本部から、後日送られてきたローストマスターズ各チームの焙煎データと評価の一覧を見て、目を疑った。(http://www.scaj.org/archives/2358)

各チームの焙煎のアプローチが記されているのだが、我々中部チームのアプローチと全く同じアプローチが記されているのではないか。

意図されたものではなく、偶然の一致だが、だからこそ、ここにいたるまでの道筋は必然であったのだという思いがよりいっそう強く感じる。

●【北海道チーム】 朝の寒い時間帯を選んで、長い焙煎時間で焼き上げたことが・・・常時火加減の微調整と、温度変化をつけることで、予想どうりの完成となった。

●【関東チームA】 序盤の水抜き工程の時間をゆっくりとり、後半一気に焼き上げる全体のテイストバランスを重視。

●【関東チームB】 スタートは弱めの火力で生豆を芯まで十分に暖めました・・・豆にストレスをかけないように、急な温度変化を避けて、火力を段階的に加えました・・・生豆の水分が抜けきった時に、強い火力を与え、豆の風味を十分に引き出すようにしました。

各チーム、表現の違いはあれ、共に短時間焙煎のアプローチとは違うアプローチを試みている。(関東Aチームは焙煎時間とアプローチの整合性がやや崩れていると思うが)

関東チームBは「恩師の焙煎メソド」そのものだし、他チームもそれをイメージしたアプローチである。

去年のローストマスターズの短時間焙煎の流れから、今年は流れがかわりだし、低温焙煎へ転換を模索しだした。

短時間焙煎の長所短所を明確に把握できて、新たな焙煎メソドを模索するというより、思うような焙煎が出来ないため、混沌とした流れの中で、新たの試みを模索している流れが、低温焙煎に集まりだしたといえる。

温故知新というか、もう一度検証しようという機運が流れ出したのだ。

過去、我々がスペシャルティーコーヒーに参入した頃、「恩師の焙煎メソド」の論理的で斬新なアプローチは今までの常識を覆すアプローチであった。しかし、そのアウトラインはあっても、その詳細は自らが模索して構築していくしかなかった。

その暗中模索の流れの中にあって、いつの間にか短時間焙煎という流れが大ききくうねりだし、本流になっていったのだが、それでも僕と同様に暗中模索の流れに留まって、焙煎の全体を冷静に眺める流れはあったのだ。

その流れの中心には、やはりオピニオンリーダーの存在があった。彼が情報を発信しだすことによって、全体の機運が少しずつ、同じ方向に動き出したのだ。

今回はM珈琲のM氏がオピニオンリーダーであり、彼の真摯で地道な焙煎指導に加え、業界紙に自らの焙煎メソドを公開した結果、混沌とした淀みから、いっきに支流が合流しだしたと思う。

今回の流れで、M氏は「恩師の焙煎メソド」や「低温焙煎」という言葉は好まないだろう。短時間焙煎を含めて、それらを統合し、止揚した新しい焙煎メソドといったほうがいいかもしれない。

******************************************

ジョージ・ハウエルのコーヒーとの出会いが転機となって、焙煎に対する自己の確信を得たが、各チームのデータから、全体の流れも同じ方向に転換しだしている事実に驚いた。

偶然といってしまえばそのとうりだし、単に自分の情報に対する嗅覚が鈍いだけのことかもしれないが、ジョージ・ハウエルのコーヒーとの出会いは偶然では済まされない。

もう辞めようと思っていたローストマスターズチャンピオンシップへの参加から、全てが自分の中でも動き出した。

あの時のカッピングは、神の啓示のように、戦慄が走り、迷いは一気に解消した。