いつものように、高温で抽出したコーヒーと、それより低い適正な抽出温度で抽出したコーヒーを比較して、参加者に印象を伺っているときに、ある参加者が感想を述べた。
「確かに、高温で淹れたコーヒーより、適正な温度で淹れたコーヒーのほうが後味のまろやかさの点で、明らかに差を感じます。温度ってとても大切なんですね。」
そして、
「焙煎も温度で大きく変わるんですか?」
意表を衝く質問であった。
「もう焙煎なんて、温度と時間との戦いみたいなもので、あまり大ぴっらには言えませんが、数秒釜出しが遅かったり、早かったりしたら、ガラッと味が変わってしまうんです。温度なんてコンマの誤差で変わるんですよ。」
質問に答えながら、質問の主旨に正確に答えていないことに気づいた。
適正な焙煎=“適正な時間と温度が管理された焙煎”と、それより高い温度で推移した焙煎を比較した場合のカップ結果を述べるのが、この場の質問の主旨にそった答えなのだ。
しかし、肝心な適正な焙煎自体が分かっていなから、比較のしようがない。
温度や時間の変化でガラガラと味が変わる事実だけを、ことさらに誇張して言うことしかできないのが実に情けない。
「適正な焙煎自体、実はまだはっきりと分かっていないんですよ・・・それが僕の人生最大の悩みなのです。」
と、心の中でつぶやいた。
でも、今の時点で、分かっていることは・・・短時間焙煎と恩師のメソドの長所、短所は・・・
そして、ハッと気づいた!
「短い時間で仕上げる焙煎は、投入から高い温度でいって、そのまま高い温度を維持しながら一気に仕上げるんです。圧倒的なフレバーやスカッとした明るさは大いに魅力なんですが、アフターの甘さや滑らかさがいまいちなんです。」
気づいたことを整理しながら、口が勝手にしゃべりだした。
「しかし、投入温度を落として、ということは時間がかかるわけですが、“適正な温度”を維持しながら焙煎すると、アフターの甘さや滑らかさが出てくるんです。」
「焙煎も抽出と全く同じ結果になるんです。適正な温度の焙煎とそれより高い温度での焙煎を比較した場合、まろやかさに差が出てくるんです!」
抽出で検証していたことと、焙煎で検証していたことは、実は全く同じ検証をしていた!ということがそのときに分かった。
両者は温度の高低差による味覚の変化という点で、くしくもつながっていたのだった。
焙煎での検証は短時間焙煎と恩師のメソドというアプローチの違いばかりに気をとられていて、本質的な違い、すなわち温度の違いに気づいていなかった。
投入から水抜けまでの平均温度は、短時間焙煎のほうが高く、恩師のメソドは低い。
抽出において、抽出温度が不用意に上がらないように注ぎ、その後の温度上昇に気を配りながらお湯を注ぐように、焙煎における恩師のメソドも投入温度に注意して、水抜けまでの火力の微調整に気を配る。
不用意な温度変化に注意して、繊細な温度管理を心がけることにおいて、恩師のメソドと適正な抽出メソドは符合する。
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短時間焙煎は高い温度で投入し、高い温度を維持しながら、一気に焼き上げる。そのカップはまさに、抽出温度を高く推移させて抽出したものと一致する。
短時間焙煎はキレの良いアフターと圧倒的なフレバーは飲むものを圧倒させるが、甘さや滑らかさ、そしてアフターがフラットで、深みとか厚みにかける。
抽出と同じように、投入から高い温度にさらされることによって、生豆の組織が警戒心を抱き、自らの成分を内に引きとどめるのか?あるいは成分の一部が破壊されるのか?
原因は分からないが、とにかくアフターがフラットで、スペシャルティの魅力であるスイート、ロングフィニッシュが出てこない。
飲んだあと、甘さと滑らかさが持続し、咽喉から鼻腔に抜けていくフレバーが余韻を残しながら、心地よくフィニッシュするアフターこそスペシャルティコーヒーの真骨頂なのだが、それが出てこないのだ。
この事実は、スタバやピーツと、ジョージ・ハウエルのクラシックフレンチローストを比較カッピングすれば、はっきりと認識できる。
あるいはインテリゲンシアやスタンプタウンのシングルオリジンとジョージ・ハウエルのフルフレバーローストを比較しても良いだろう。
これらを比較することによって、浅煎りから深煎りまでの広いレンジで同じ結果が出るのは、後半のドライディスティレーションの工程よりも、前半の水抜き工程における温度変化によって、マウスフィールやアフターの向上がなされると判断したい。
抽出で、高い抽出温度から適正な抽出温度に変化さることによって、甘さや滑らかさが向上した。
それと同じように、焙煎も初期(投入)温度を押さえ、全体の平均温度(水抜けまでの焙煎温度)を適正にすることによって、マウスフィールやアフターが向上してくるのは抽出の場合と全く同じであると思う。
上記のアメリカのスペシャルティコーヒーロースターの焙煎メソドの詳細は明らかではないが、上記のカッピング結果は、僕が実際試みている短時間焙煎と恩師メソドのカッピングの比較結果と全く同じである。
しかし、だからといってジョージ・ハウエルの焙煎メソドが恩師の焙煎メソドと符合するという結論はまだ導き出せない。
素材の圧倒的な差があって、短時間焙煎でも、上記のようなアフターの差が出ているかもしれないし、スマートロースターの優秀性かもしれない。
今一度、短時間焙煎と恩師のメソドの精緻な検証をしてみたい。