仮に、煎り止めを中煎りとした場合は何分の所要時間をもって短時間焙煎といえるのだろうか?
もし、友人たちにこの質問をしたら、多くの場合「答えようのない愚問だ」といわれるに違いない。
質問を、「今、何分で焙煎してるの?」とすれば、すぐにトータル時間と煎り止めの答えが返ってくる。
9分25秒で192℃、一ハゼが終了した少しあと。
11分30秒で189℃、一ハゼ終了間際。
12分で194℃,一ハゼが終わってしばらく。
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十人十色、様々な答えが返ってくる。
まさに百家争鳴のごとく、収拾がつきそうもない状況だが、焙煎度合を無視して大雑把にまとめてみれば9~12分の範囲に収まっている。
この範囲を短時間焙煎と判断しても良いと思うが、そもそも時間が短いとか長いとかは何処を基準にすれば良いのか定かではない。
短時間という呼称がされたのは、我々の焙煎時間が比較的長かった頃からだ。アメリカのスペシャルティコーヒーロースターの焙煎が11分前後であることが分かり、あまりにも短い時間に驚きをもって、“短時間焙煎”と我々が勝手に呼称したに過ぎない。
当時も、これくらいの時間で焙煎していた国内のロースターもいただろうし、もっと極端に短い焙煎も、大型のゴッドホットなどでなされていた記憶もあるから、短時間焙煎といわれてもピンと来ない方もいると思う。
ここにおいて、前回の抽出と焙煎の連関から得たヒントから、大胆な提案をしてみたい。
スイート、アフター、マウスフィールの重層=ストラクチャがどのくらいの焙煎時間で失われるか、あるいは表出されなくなるかを検証してみて、それをもって短時間焙煎と通常焙煎の分水嶺とし、そして、ストラクチャの構築はどのような過程を経れば表出されるか検証してみたい。
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具体的には15分前後の焙煎から1分ごとに短縮していって、どの時点からストラクチャが表出されなくなるかをカップしていく。
ここで注意しなければならないのは、短縮する箇所は投入から水抜けまでまでの段階であり、ドライディスティレーションの段階では時間も温度も一定とする。釜だしの時間と温度は変化させないということである。
これは、ストラクチャの構築は水抜けまでの段階であることを検証するためで、そのように仮定したのは経験からでしかない(前回・抽出と焙煎の連関Ⅱ)。
具体的には、水抜けを豆の表面温度が167℃の時点として、そこから3分半で195℃で釜だしとする。ここは固定して変化させずに、投入から水抜けまでの時間を1分ごとに短縮していく。
たとえば、トータル15分30秒の焙煎は、投入から167℃の水抜けまでを12分で経過させ、ドライディスティレーションを3分30秒・195度とする焙煎になる。
この焙煎を1分短縮させるには、投入から水抜けの167℃までを11分で経過させ,そこから3分30秒・195℃のドライディスティレーションで14分半の焙煎にする。
ドライディスティレーションを一定にしても、トータルとしての焙煎時間が違えば焙煎度合は変わってくる。トータル15分30秒の195℃と、トータル13分30秒の195℃を比べた場合、13分30秒の方が若干浅い。ここのところは厳密さにかけるが、とりあえずストラクチャの確認だから大勢には影響はない。
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結論から言うと、水抜けが9分の経緯をたどる焙煎からストラクチャが表出されなくなり、ドライが前面に出てくる。今回の検証・195℃の焙煎の場合はトータル12分30秒だ。
そして、ここからが重用なのだが、水抜け9分の場合、後のドライディスティレーションの段階において、いかなる焙煎度合でもストラクチャは表出されない。
浅煎り(約11分半)であろうと、深煎り(約14分)であろうと、そしてフレンチ!(約15分)であろうと、ストラクチャは奥に引っ込み、ドライが前面に出てくる。
このことから、ストラクチャの構築はねらいどうり、焙煎のトータル時間ではなく、焙煎の前半、すなわち投入から水抜けまでの時間=温度で決定されると見てよいと思う。
水抜け9分の焙煎は、投入から約1分半後の中点を、排気温で160℃~162℃にもっていき、その後3分、4分、5分と排気温と豆の表面温度をチェックしながら、9分の時点で豆の表面温度が167度、排気温が205℃前後という経過を経る。
一分前の、水抜け10分の焙煎は、投入から約1分半後の中点を、排気温で155℃にもっていき、その後は同じように温度上昇させ、投入から10分の時点で同じく、豆の表面温度が167度、排気温が205℃前後となる。
――水抜け10分の焙煎から、ストラクチャは表出され、水抜け11分、水抜け12分の焙煎もストラクチャは構築される――
――水抜け9分の短時間焙煎より、投入温度を低くして、水抜けまでの時間を延ばすことによって、ストラクチャは構築される――
検証から得た貴重な結果である。
ただ、この10分からの水抜き工程の精緻さが欠けると、引っかかる雑味(レスクリーン)とストラクチャの表出とが合わさって、レスクリーンが強調された印象となり、焙煎が失敗であると判断してしまう。
また、水抜き9分の焙煎はストラクチャの表出がなくなった結果、ドライになり、それがあたかもクリーンを進化させたような錯覚に陥り、より焙煎が短いことが正解であるように思い込んでしまう。
このことは、何度も過去に経験したことであり、何度も同じことを繰り返しながら、堂々巡りをし、焙煎が厄介で捉えどころないもの、またカッピングが複雑で習得が困難なものと思ってしまう原因である。
しかし、ストラクチャ=マウスフィールをしっかりと正しく捉えることができれば、水抜けがOKなのかダメなのか、ドライディスティレーションがOKなのかダメなのか、をもっとはっきりと捉えることができる。
次回は水抜き10分以上の焙煎における、精緻な水抜きを考察してみたい。