前回の検証結果より、ストラクチャ(甘さ、マウスフィール、アフターの重層性)の構築は水抜けの167℃の時点を9分から、1分延ばし10分にすることによって構築されることを確認した。
1分延ばすためには、投入温度や初期火力を調整して、ボトム(最下位点)を落とすことで対応した。具体的には、排気温ボトムを160℃から155℃に落とすことで対応した。
検証結果から、ストラクチャの構築は、短時間焙煎より投入時の釜の内部温度を低くし、水抜きまでの時間を延長させることによって構築されることが推測できる。
しかし、構築に大きく作用するのは初期の釜の内部温度なのか、あるいは水抜けまでの時間なのか、あるいは水抜けまでの温度と時間の総合関係なのかはまだ結論が出ない。
ちなみに、自分の過去のサンプルの中に、排気温度のボトムが135~140℃で、投入から9分後に豆の表面温度167℃!というサンプルがあったが、ストラクチャは表出されていなかった。
意図的に設定した低いボトムから、高い火力で一気に9分まで駆け上がる焙煎だが、ストラクチャは単に釜の内部温度を低くすれば構築されるわけではなく、時間も無視し得ないことが分かる。
仮に、この焙煎を1分延ばし、10分で167℃という過程を経たら、ストラクチャは構築されてくると思う。しかし、水抜けが微妙に変化し、その結果としてレスクリーンとストラクチャの表出で、カップの印象度はグッと落ちてしまう可能性も含む。
ストラクチャの表出は本来ポジティブなカップであるが、レスクリーンと融合すると、カップの印象度をよりネガティブにしてしまうため、焙煎の変更が失敗だったと結論づけてしまう。
実は、僕の水抜け10分の焙煎の場合も、ストラクチャの構築は出来ているが、水抜きがあまく、雑味がひっかかり、レスクリーンが出た。
水抜け11分も、12分も同じくレスクリーンであった。
水抜け9分のスカッとしたクリーンが出てこない。もしかして、水抜け10分以降の水抜けのあまさを、ストラクチャと取り違えているという一抹の不安が襲ってくる。レスクリーンの“暗さ”をストラクチャと混同しているのか・・・・
これはありえない話ではなく、よく経験することだ。レスクリーンをコクと思い込むミスを恩師がよく指摘していた。
今一度、ジョージ・ハウエルのコーヒーをカップする。
スイートとマウスフィールが重層をなし、フレバーが鼻腔をくすぐりながら、心地よくロングフィニッシュする。
クリーンとストラクチャの“両立”が完璧である。
僕の水抜け10分の焙煎は・・・・レスクリーンをストラクチャと取り違えているのではなく、明らかにストラクチャは構築されている。問題はやはりクリーンだ。
水抜きが精緻になり、クリーンに仕上がれば、スイート、アフター、マウスフィールの重層感はより明確になり、フレバーももっと立ち上がってくるに違いない。
水抜き9分はクリーンに問題はなく、水抜き10分以降からクリーンにかげりが出てくるのは何処を原因としているのか?
過去の焙煎データを精査し、ある点に気づいた。
水抜き9分焙煎から10分の焙煎にシフトする場合、“投入温度と火力”の双方を抑えて、排気温ボトムを5℃落として、水抜けまで1分延長した。
もし、この方法が原因で水抜けが悪くなっているのなら、投入温度を抑えたことよりも、火力を抑えたことの方が大きく起因していると思う。
ある一定以上の火力がないと、豆の芯から水が抜けてくれない現象を多く経験しているからだ。
ある一定の火力から、豆の繊維組織が開くことによって、水が抜けていく下地が出来るように思う。それ以下の火力だと、豆の繊維組織が開かないため、いつまでもうじうじとした焙煎になって、最後まで、水が抜けきらない印象がある。
この理屈からいけば、水抜け9分の火力を維持すればよい。
しかし、それによって水抜けまでの時間が短縮してしまっては元も子もない。
水抜け9分の火力を維持して、水抜け10分という制約をクリヤーするためにはどうしたらよいか。
それは、ボトムをさらに落とせばよい。ということは、さらに投入温度を下げればよい。そして、これはストラクチャの構築要件と矛盾しない!
水抜け9分の火力を維持しながら、投入温度とボトムをどのくらいまで落とせば、水抜け10分の焙煎が可能になるかは、実際の釜で検証するしかない。
僕の場合、投入の排気温度を205℃から185度に落とし、投入火力はそのままにして、排気温のボトムを160℃から150℃に落とせば、10分167℃の水抜きは可能になる。
そして、水抜きの改善と、ストラクチャの構築、すなわちクリーンとストラクチャの“両立”が完成する。
水抜き11分、12分の焙煎におけるクリーンとストラクチャの両立は今後検証してみたい。