恩師のメソドは低い釜の内部温度で水を抜き、水が抜けたら、内部温度を一気に上げて、香味を進化させることが特徴でした。
このポイントの前半のポイント、すなわち投入から水抜けまでの工程を今一度、検証してみます。
低い内部温度で水を抜くというフレーズは何となくイメージとして合点がいきます。
グリーンで固く閉じた生を、高い内部温度と高いガス圧で投入したら、表面からいきなり焙煎が進行してしまい、中心部に水が残ったまま焙煎が終了してしまうということがイメージできるからです。
それ故に、投入から内部温度を低くして、ガス圧も控え気味で、焙煎時間がやたらだらだらと長くなってしまう傾向がありました。
浅煎りから中煎りで、15分から20分前後の焙煎を繰り返し、迷走ばかりしていました。それらは暗く歪んだカップばかりで、明るくイキイキとしたスペシャルティコーヒーの本質をスポイルしてしまっているものばかりだったと思います。
水が抜けていても、肝心な成分まで抜けてしまって、繊維質むき出しの焙煎であったり。あるいは水抜きが中途半端で、なおかつ成分は抜け気味の暗く、後味の悪い焙煎であったりと、お世辞もスペシャルティコーヒーとは言いがたいものばかりでした。
その反省から、投入温度やガス圧を上げて、時間を短時間化していく試みをしてみました。そうすれば、よりいきいきと明るくなってくることは経験からイメージができたからです。
しかし、その多くは当初危惧したように表面から焙煎が進行してしまって、内部に水が残った刺激的な重い=後味の悪いカップになりました。一時的にイキイキと明るくなって、フレバーも印象的になっても、同時にマウスフィールやアフターが大きく歪んでしまいました。
豆の表面の上層部分ではしっかりと水が抜けて、ドライディスティレーションもできていても、中間層から芯にいたっては水がしっかりと残っている結果、アフターやマウスフィールが悪いカップになるのです。
強引に火力をあげて、短時間化した場合、中間層から芯にかけて、まだ水分が残っているのに、表面から焙煎が進行ししてしまう原理です。
この段階において、短い時間で水を芯から抜くためにはどうしたらよいか?――が明確な課題になったわけです。これを一気に解決してくれたのは、投入量の思い切った減量と釜の余熱の活用でありました。
釜の余熱をしっかりと確保し、投入量を減量することによって、短時間で芯から水を抜くことが可能になります。
要は火力に頼らなくても、余熱の力でスムースに、水が抜けることになり、結果として従来より低い内部温度で水抜けが完了するのです。
しかし、釜の余熱が脆弱だと、すぐにに生豆が吸収してしまい、進行ペースがダウンしてしまうため、それを防ぐために、火力に頼らざるを得なくなります。
結果、必要以上に内部温度が高くなり、中心部に水を残したまま、ドライデイステイレーションが始まってしまいます。
また投入量が多すぎる場合も、釜の余熱をしっかり確保しても、やはり生豆が吸収してしまって、ぺース維持のためには、火力に頼らざるをえないため、同じ結果となります。
要は釜の余熱と投入量の相関関係があるようで、そのベストマッチを見つければよいのです。
ちなみに釜の構造や材質もこの関係におおいに関わっていると思います。またドラム式ではなく純然たる熱風式では、釜の余熱よりも、投入量と内部温度の緻密な相関関係が水抜けの良否に影響することになります。
ベストマッチを見つけることによって、結果としてより低い内部温度(あくまでも相対的です)で水を芯から抜き、かつ短い時間内にそれを達成する、という矛盾を克服することができるようになるのです。
“短時間化の工夫”によって、水抜きと成分の保持が可能となったのです。
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短時間焙煎が失敗するの最大の原因は、焙煎機の容量に対して投入量が多すぎるからだと思います。
メーカー公表キャパはシリーンダーの容量から単純に表示したものにすぎません。
その表示は経済的な要因、すなわち顧客(ロースター)が販売量と投資額の関係からのコストを計算するための目安にすぎず、焙煎ノウハウからキャパが計量されているのではありません。
あくまでもコストパフォマンスを意識した許容量であるわけです。
メーカーの表示を目安として、とりあえず最初は控えめにして、仮に6~7割くらいの投入量に設定しても、その投入量が適正でない限り、焙煎をどう試行錯誤しても上手くいかないのです。
何度繰り返しても、焙煎が見えてこない。ーーーー
そんな、焦った状況下にあっても、投入量を変更することは、ただでさえ難しい焙煎がより複雑になってしまう(変数が増えてしまいます)という危惧があり、それを極力避けようとします。
また、販売量と焙煎コストや手間暇の兼ね合いから、投入量はある意味“聖域”になっていて、投入量を少なくするすることは、避けて通りたい本音があります。
倍々ゲームで販売量が伸びている状況下であれば、それはなおさらに深刻です。
何回も同じパターンを繰り返して、カップが向上しない状況から、ふと投入量が多すぎるのではないだろうか?という本質的なポイントに気づいても、なかなか投入量の減量には踏み切れないのです。
その結果、いつも堂々巡りをして、焙煎の迷路にハマり込んでいく構図が見えてきます。
焙煎の迷路から脱却し、焙煎のカラクリが見えてきたのは、先ず以て、投入量の減量を断行したことなのです。
それは、僕や友人たちの偽らざる事実なのです。
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投入量を減量し、釜の余熱を確保することによって、短時間で(ということは成分を確保して)、水を芯から抜くことが可能となリます。
投入量の減量と釜の余熱のマッチングの検証は、実にスリリングな検証結果をもたらしますが、具体的には、投入からボトム、ボトムから水抜けまでの豆の表面温度と内部温度の関係を模索することになります。
特にボトムから水抜けのまでの、豆の表面温度と内部温度を時間軸で精緻に検証していくと、投入量における水抜けのピンポイントが見えてきます。