スターバックスと味の素ジェネラルフーズ(AGF)の戦術

008_960x1280数年前から近所のスーパー(旧鉄道系列)で、手軽にスターバックスのコーヒー豆が購入できるようになりました。

スターバックスの直営店が、絶対に出店するはずがない片田舎の町で、スタ―バックス(以下スタバ)の豆を手軽に購入できるようになったことは驚きです。

もちろん品揃えは、ハウスブレンド・エスプレッソブレンド・ライトノウトブレンドの3種で、挽き豆のみですが、そこには周到な外資の経営戦略が見えてき来ます。

スタバとAGFの提携によって、AGFの流通経路にスタバの豆が流通し始めたことは知っていましたが、あっと言う間の速さで、近所のスーパーの棚にスタバの豆が並ぶことなど想像もしていませんでした。

高を括っていました。

もちろん、その近所のス―パーが外資系ファンドに身売りした経緯があり、ファンドの品揃戦術からAGF商品の取り扱いを増やしたと推測されます。

今後ジワリジワリと他の地方の量販店に、セグメントされたスタバの豆が確実に浸透していく気配を感じます。

その近所のスーパーは時々、チェックをいれていますが、スタバの商品はそこそこに動いています。それに反して、同じ棚の日本の老舗ロースター(ナショナルブランドの安売りのではなく、京都や神戸の老舗ブランド)は苦戦していると思います。

同じ価格帯で、容量を減量する事(160g~140g、売価¥698!)によって、単価(¥4365/Kg)を確保して、問屋・取扱店にはそこそこのマージンを確保し、なおかつ消費者にはブランドイメージからくるお値打ち感によって、ジワリジワリと家庭に浸透していく状況が垣間見えてきます。

実に容量と売価のセッティングが巧妙で、AGFとスタバがコラボした憎らしい戦術です。

また、スタバ本体は高速道路の主だったサービスエリアや、路面店への出店とドライブスルーの設置、図書館や書店とのコラボなど積極的に出店していていますし、既存店舗でのコーヒー教室の開催なども、積極的に展開しています。

本当に外資は抜け目がありません。

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少し脱線しますが、味方塾をたちあげた当時、恩師が「早くしなければ・・・・」と口癖のように言って、焦っていた事を思い出します。

この現象を危惧していたことにほかなりません。

あっという間に外資が日本のコーヒー市場を席巻してしまうであろう状態を、すでに恩師は冷徹に見据えていました。

僕を含め、当時の日本の業界はまさに、コーヒーについてあまりに無知であり、そのことを認識していなかったこと。そして、アメリカで起こっていたコーヒールネサンスに対して無頓着で、たとえ知り得たとしても、それを無視して謙虚に学ぼうとしない姿勢=自分たちのコーヒが正しいんだという思い込みに、恩師はいつも苛立っていました。

まさに子どもと大人の差を恩師は感じ、危機感をつのらせていたのです。

このままでは外資が優良な産地を独占し、日本の市場をいいように食い荒らしかねない状況を危惧して、孤軍奮闘していました。

スペシャルティコーヒーという新業態を、事細かく、何度でも理解するまで説教し、どう事業を立ちあげ、どう産地とコンタクトするかまで指導してくださいました。

特に、そのための根幹であるカッピングスキルの習得には、特に心砕いていくださいました。

とにかく当時、スペシャルティコーヒーという新業態を真摯に学び、それを志す起業家、ロースーターを育て上げることが、恩師の喫緊の課題でした。

現在、日本のスペシャルテイコーヒー協会が立ち上がって、それを多くの参加者が支えていますが、その土台を築き上げたのは恩師にほかなりません。

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001_1280x960さて、抜け目の無い外資の戦術に戻ります。

近所のスーパーのスタバの棚に並んで、同じくAGFが提携しているクラフトフーズ社の製品がありました。マックスウェルブランドを冠したコーヒーです。

挽き豆の一種類のみですが、プレミアムのコスタリカをメインとしたブレンドで、インスタントのイメージから、浅煎りを想像していました。

しかし以外にも深煎りで、スタバのダークローストに近い焙煎でした。

おそらく、AGF系列で在庫処分対象商品として流れてきたものと思われます。

カップの印象はクリーンでそれなりの素材と思いますが、嫌味が媚びるようなアフター(ビター)があり、キレが悪いカップでした。

しかし、クリーンで、しかも深煎りなのに、ブライトな酸の質感を感じますから、これは素材の欠陥ではなく、焙煎が原因と思われます。

スタバの豆と比較した場合、なおさらこのアフターやマウスフィールの悪さが際立ちます。

比較したスタバの豆より、このクラフトの方が品質は上と思うのですが・・・・・・・。

そして、ここからが重要なのですが、この対比の構図はスタバと大半の国内のロースターと比較してカッピングした時と同じ構図なのです。

一定以上の品質であれば、ビターや、同じくアフターやマウスフィールを阻害するアストリンジェントなどがカップとして出てくるのは、焙煎によってもたらされた、と判断して良いと思います。

そして焙煎によってもたらされるビターやアストリンジェントは多くの場合、釜の実質投入キャパ以上に投入量が多いことによってもたらされます。

釜の実質容量より投入量が多い場合、きちんとカップをしていれば、必然的に焙煎時間が長くなります。

そうしないと、水抜けが中途半端でカップが向上しないからなのですが、しかし時間を延長してカップを表面上向上させても、ビターやアストリンジェントはアフターの領域でひつこく残ります。

このビターやアストリンジェントは実に厄介で、カップを繰り返していると、初期の違和感はやがて慣れてしまい、取り立てて問題ないように判断してしまいます。

しかし、そのカップの液体を個別にとって、グラニュー糖を多めに入れ、あらためて検証すると、コーヒーとグラニュー糖の甘さが分離してしまい、とても違和感を感じます。

それに牛乳を加えて検証しても同じ結果となります。砂糖や牛乳とコーヒーの液体が、渾然一体にならず、それぞれがてんでバラバラになって、カップが上手くまとまらないのです。

要は美味しくないのです。

エスプレッソはその特徴ゆえに、これを正直に表現してしまします。そして、一瞬の誤差で陥ってしまう過抽出と重なってしまうと、もうどうしようもなくなります。

ラテが上手くまとまらない多くの原因はここにあると思うのです。

そしてさらに、恐ろしいことは品質の善し悪し以上に、このアフターの欠点の有無が、商品のリピートにつながるか、つながらないかという結果を左右することです。

アフターの良否が、消費者の無意識の領域で、その商品のリピートの可否を決定していると思うのです。

現にクラフト・マックスウェルは動いていません。おそらくリピートがないのだと思います。

残念ですが、日本の老舗ロースターも同じくリピートがないようです。

しばらくして、両者はセールの対象商品になっていました。

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P1030130_1280x960いくら、品質が良くても焙煎によって、このようなネガティブなカップがあれば消費者はリピートしてくれません。

アフターの良否がリピートを無意識の領域で左右する恐ろしい現実があるのです。

ちょっと言いすぎかもしれませんが、素材そのものの良否を、アフターの良否が凌駕しているとさえ思えてきます。

それは、品質の差があまり変わらないのであれば、焙煎によってリピートを優位にできることを、スタバは雄弁に物語っています

感動的なテロワールをもった高額なコーヒー豆は企業ブランドを維持するためには必須ですが、そこそこに美味しく手頃な価格のコーヒー豆が支持されるという現象は、数年前から欧米の市場で顕著化して、我々の市場もそうなっています。

高品質の素材を確保すれば、競争で優位に立つということはもっともの事ですが、その優位性が保証されるのは、焙煎や価格によってなのです。

そこそこの素材を確保し、きちんと焙煎すること、そして価格をリーズナブルに設定することが、外資との競争を勝ち抜くポインだとと思います。

きちんと焙煎することは、投入量の適正化にほかなりません。まさにこれにつきます。

残念ながら現在の状況は、我々国産ロースターがいかに、生産効率ばかりに取り憑かれ、品質を蔑ろにしている状況が垣間見えてきます。

もっとまじめに焙煎しろよ!目を覚ませよ!と言いたくなります。

味方塾を立ち上げた当時、圧倒的なスタバの品質は憧れでありました。しかし需給のパワーバランスの事情から現在は,外資との品質の差は均質化してきていると思います。

今季のスタバのアイスドコーヒーをカップしていると、それを強く実感します。

そうであれば、焙煎機の最適な投入量を検証し、アフターを徹底的に改善することが、我々に与えられた大いなる反攻のチャンスであると思います。

グローバリゼーションが人々の反感を呼び、不平等が拡大し続けているのは、市場の参加者に歴然とした情報の差があるという分かりきった状況で、自由競争を是とし、それを強いるからです。

これがアングロサクソン流のグローバルスタンダードのカラクリなのです。TPPの参加もこのことを肝に命じておかなければなりません。彼らが狙っている本当の市場は、彼らが優位に立てる市場にほかなりません。

彼らが不利な市場は、自由競争という概念すらないのです。

まさにダブルスタンダードがまかり通る、不誠実な世界なのです。

幸い、我々の市場は恩師のご尽力によって、情報の差はギリギリのところで防ぐことができました。

生産効率ではなく、あくまでも品質(特にアフター)から焙煎を見直すことが、まさにわれわれに与えられた喫緊の課題です。

そのことによって、恩師のご尽力が完結すると思うのです。

次回は、具体的に水抜けのピンポイントを検証してみます。