水抜きのポイント:クリーンの達成要件Ⅲ

P1030128_1280x960_2前回は、とりあえず通過点としの豆の表面温度(今回は167℃) を決定して、投入からその温度までの時間を徐々に変化させることによって、水抜けの最適なペースを模索しました。

その検証は9分台からスタートし、カップの結果から徐々にペースは短縮してきました。投入から豆の表面温度が167℃至る時間が短くなればなるほど、明るさとクリーンが向上するからでした。

そして、あくまでも焙煎機の特性と投入量によりますが、投入から5~6分で167℃に至ると、劇的にカップが向上してくる結果を得ました。

徐々に時間を短縮することによってカップは良くなってきたわけです。ならば当然4分台(4:30~5:00)はありか?となります。

しかし、さすがにこの段階まで来ると、甘さや滑らかさが欠けてしまい、カップは“硬く”なります。水抜けが云々というより、そもそも成分(油分)も吹っ飛んでしまっていることが推測されますが、この辺りはもう少し詳しい検証が今後必要と思います。

逆に、6:00分以上では水抜けが悪いため、アフターが歪になって、甘さや滑らかさが合成されていても、それらが阻害されたカップになります。

温かいうちはブライトやライブ感はでていますが、冷めてくるとそれらに陰りが生じ、暗くなってきます。

特に6:00分前後のカップは特に注意が必要です。暗い印象があっても、カップを繰り返していると、何気なく良さげに思えてきます。

しかし、その液体を別のカップに取り(大さじ7)、グラニュー糖をかなり多めに入れて(小さじ2)検証すると、カップの欠点が如実に現れます。

グラニュー糖の甘さと液体が分離してしまっていて、甘さが乗ってきません。グラニュー糖の甘さと液体の甘さ・滑らかさが渾然一体となった“美味しい”状態には至らないのです。

それは、芯から抜けきっていない水が悪さをしているため、アフター・フィニッシュが微妙に重くなり、マウスフィールも悪くなっていることにほかなりません。

エスプレッソで抽出すれば、この欠点がモロに出てくることは前回指摘したとおりです。

以上のことから、投入から5~6分台の間に水抜けと成分(油分)の微妙なバランスがあると推測されます。

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P1030127_1280x960_2結果として、5:45~5:15秒前後が最高のパフォーマンスをしめします。

わずか30秒というわずかな範囲ですが、カップは劇的に変化し、そしてこの中にすべての表現が凝縮しています。

まさに前半のピンポイントと思います。

5:45~5:15秒の30秒間に、ジョージ・ハウエルやスタバやピーツが混在する――おそらく誰も信じれないと思いますが――とういう驚くべきカップ結果がでてきます。

具体的には、投入から5:45秒前後に、豆の表面温度が167℃に至ると、水抜けがフッと改善され、甘さと滑らかさが全面に出てきます。その後順調に推移すれば、8:00前後にファーストクラックが始まります。

このペースでは、甘さと滑らかさのボリュームがスポイルされずに、最大限に保たれているので、浅煎りの本焙煎に最適なペースだと思います。ただ素材の酸の質がもろにでるため、素材が限定されます。

また、通常のドラム式焙煎機より、熱効率のよい純熱風の焙煎機のほうが、精緻な水抜けと成分のボリュームとのバランスが可能となり、ジョージ・ハウエルに肉薄した焙煎ができると思います。

ブラジルのナチュラルやパルプドナチュラルは、何故かこのペースはむいていません。発酵工程(ウォッシュド)による酸の浄化がなされていないためなのかもしれません。

あるいは、酸の特質からではなく、ファーストクラックが他の豆に比べて遅いところが直接の原因かもしれません。

この工程の場合、大多数の豆は8:00分前後でファーストクラックが始まりますが、何故かブラジルは8:15~30秒にずれこんでしまいます。栽培地の高低差(豆の硬度)が原因かもしれません。今後詳しい検証が必要と思います。

そして、5:30秒前後に至ると、いっそうの水抜けと、それが故の、ストラクチャ・甘さと滑らかさの減量が始まります。ファーストクラックは7:45秒前後に始まります。

しかし、やや減量したといっても、魅力がスポイルされたわけではなく、全体のバランスがとれたカップになります。ブラジルのナチュラルやパルプドナチュラルはこの段階から、劇的に変化します。

そして、5:15秒に至ると、より甘さと滑らかさが後退することによって、ドライとクリーンが明確に表立ってきます。ファーストクラックは7:30秒前後に始まります。

今日の飽食の時代にあっては、この状態がバランスの良いカップと判断されると思います。浅煎りでも、深煎りでも、スカッとしたアフターの表現には最適です。

しかし、さすがに浅煎りはストラクチャ=甘さや滑らかさが後退して薄っぺらい印象が強くなるのは、素材の油分が減量してしまうからと思います。

これをまっとうな飲料とするためには、深煎りに持っていくことによって、キャラメル化で補完せざるを得ません。

あくまでも想像ですが、欧州を模範として、打開策を見出そうとしていたセカンドウエーブの米国のコーヒールネサンスを切り開いたロースターたちは、深煎りを標榜しているため、この5:15秒前後、あるいはもっと短いペースに収束していったと思います。

この辺りのペースは、まさにドライを最優先したスタバの焙煎を彷彿とさせたり、ピーツの11分焙煎とも符合するからです。

ちなみに、彼らの商品ラインに浅煎りがないのは、過去の不味いコーヒー=低品質の浅煎りのコーヒーに対するアンチテーゼとして、深煎りにこだわる故なのですが、それがゆえにスペシャルティコーヒの魅力そのものを、浅煎りで表現できないことも事実と思います。

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セカンドウエーブの旗手たちは焙煎コンセプトを特化して、消費者に分かり易くした結果、インパクトをもって受け入れられ、時代のムーブメントを作りました。

そのこと自体はエポックメイキングなのですが、単に時代のニーズを敏感に感じ取って、欧州を模範として、それを具現化したことにほかなりません。

当時の米国のコーヒー市場にあって、セカンドウエーブの旗手たちが痛切に感じたことは、コーヒーの消費が低減して市場が縮小したのは、価格の過当競争がもたらした品質の悪化が最大の要因であったことです。

市場を再び活性化するためには、先ず以てコーヒーの質そのものを向上することであり、そのためには彼らは直感として、具体的に今一度、真摯に欧州の老舗に学ぶこととを選択しました。

ーー優良な農園と継続した取引で、高品質の素材を確保し、マイスターたちによって継承されてきた焙煎ノウハウを受け継ぎ深くローストする。そして、エスプレッソをメインにして商品ラインを構築していく。ーー

彼らは脈々と受け継がれてきた欧州の作法を真摯に学び、自分たちのコーヒーを再構築するお手本にしたのです。

その結果、スタバやピーツが米国の市場に受け入れられ、初期のコーヒールネサンスが開花したわけです。

それは欧州のお手本を再現したまでにすぎなかったのですが、その後の彼らの活動は、まさに彼ら米国人の真骨頂で、お手本に飽きたらず、コーヒー全般(栽培、焙煎、抽出)の徹底した分析と、その品質向上のノウハウを構築していきます。

ちょうどその頃、国連プロジェクトの最終予算で、試験的に始めたブラジルのコンペティションを母体にして、COEが発足・発展していきます。

その頃のカッピングスコアーのフォームはまだ定まっておらず、試行錯誤の連続でしたが、サンプルローストだけではなく、本焙煎においても、スペシャルティコーヒーの魅力を表現するには、浅煎りの焙煎でなければ意味が無いことを、皆意識し始めた時代と思います。

この辺りから、真のコーヒールネッサンス=サードウエーブが出てきます。

スペシャルティコーヒーの本来の魅力=稀有かつ特徴的なフレバー、芳醇な甘さ・滑らかさ、生き生きとした酸がもたらす明るさ、そして余韻を残しながら心地よくフィニッシュするアフター=をバランスよくどう焙煎するか?

P1030317_1024x768深煎りではなく、浅煎りでそれを達成するには、どう焙煎すれば可能か?皆が意識し始め、そして暗中模索をし始めたのです。

その頃、僕らもSCAAのイベントに参加した仲間が持ち寄ったインテリジェンシアやスタンプタウン、そしてジョージ・ハウエルの豆を必死にカップして、ノウハウを探っていました。

どのように焙煎したら、このような特徴を引き出した焙煎ができるのか?でも、冷静にカップをしてみると、それぞれ欠点もあって、その欠点がどのような工程ででてくるのか?――と。

特にジョージのケニアは衝撃的でした。

クラクラするフレバーに圧倒されつつも、「これでもか!」という押しの強い表現が違和感を否めなかったことを思い出します。

現在の穏やかで、優しいジョージのケニアとはまさに雲泥の差を感じます。

この進化は、セカンドウエーブの勃興から、最初のブラジルのコンペティション、そしてCOEの発展を経過して、サードウエーブが勃興し現在の発展に至るまで、愚直にスペシャルティコーヒーを追い求めてきたハウエル氏の真摯な軌跡そのものなのです。

そしてそれは、まさにスペシャルテイコーヒーの進化の歴史そのものと思います。

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次回は、投入時の釜の温度とガス圧の組み合わせを変化させて、投入から5分30秒で豆の表面温度が167℃至る最適なガス圧を模索してみます。

それこそ、投入から5分30秒で豆の表面温度が167℃至る、投入時の釜の温度とガス圧の組み合わせは千差万別ありますが、釜の容量と投入量の関係によって、一定の限界があります。

それは、釜の容量と投入量の関係からガス圧の上限があり、投入から5:30秒で豆温167度に至っても、水抜きが上手くできない現象が出てくるからです。

相対的に釜の温度が低いと、上記のペースを維持・達成するためにはガス圧を上げてなければならないのですが、ある一定以上のガス圧になると急にカップに異変が生じてきます。

一定以上のガス圧になると、豆の芯に水を残したまま、表面から焙煎が進行してしまいまう、いわゆる“表面焼け”の現象が出て来るわけです。

このことからも、焙煎がとても厄介なのがお分かりいただけると思いますが、この現象を解明するために、投入時の釜の温度とガス圧の組み合わせを、3つのパターンで検証してみます。