マウスフィールからの解 Ⅰ

013_1024x682公私共に忙しく、書き込みが大変遅くなって、申し訳ございません。

さて、前回は投入から5分45秒~5分15秒内に、豆の表面温度が167度に至るペースを検証しました。

その結果、わずか30秒ほどのタイトな時間帯の中に焙煎のエッセンスが凝縮されている驚くべき結果を得ました。

上記のタイトな時間帯にペースを収めることができれば、大概カップが向上するはずですが、より悪化する経験をされた方も多くいると思います。

短時間化してもよくならない原因を探っていくと、多く場合、ガス圧にたどり着きます。

ここは前半の最大のポイントと思います。

なぜならガス圧が水抜けの良否を左右し、その結果カップが大きく変化します。特にアフターや、マウスフィールの領域において顕著にカップの変化を認識できるからです。

例えば、投入時の釜の予熱が相対的に低い場合、ガス圧を上げることによって、上記のペースを維持できます。

しかし、“ある一定以上のガス圧”(ある一定以下の釜の予熱でもあります。)からカップが急激に変化します。

それは、強すぎるガス圧によって、内部に水を残したまま、表面から強引に焙煎が進行してしまうからで、いわゆる“表面焼け”の現象が出てくるわけです。

(“表面焼け”は表面が焦げるという意味ではなく、焙煎が急速に表面から進行してしまい、その結果として内部に水が残ってしまう現象を意味します。誤解なさらないでください。)

また逆に、投入時の釜の予熱が相対的に高い場合、ガス圧を下げることによって、上記のペースを維持できますが、この場合も“ある一定以下のガス圧”からカップが急激に変化します。

相対的に高すぎる予熱が原因で、急激に豆の表面温度が上昇してしまいます。

それを避けるために、火力を抑えるわけですが、これは結果として、上昇ペースを表面的に繕っているに過ぎず、実際は火力不足がたたって、内部に水分が引き篭もって、抜け切らないためです。

このように釜の予熱が低いにしろ、高いにしろ、ガス圧の操作を調整することによって、目標とするペースは維持できますが、豆の芯から均一に水がスムースに抜けてくれるガス圧の許容範囲は、ごく限られてくるわけです。

短時間焙煎を試みて失敗するのは、ほとんどの場合このガス圧の許容範囲に収まっていないのが原因と思われます。

しかし、焙煎をある程度、習得して何度かチャレンジすることによって、このカップが変化しだす上下のガス圧の範囲内に、なんとなく収まった焙煎ができようになります。

焙煎とカップを繰り返すうちに、結果として、予熱とガス圧のまっとうな妥協点を模索できてくるわけです。

しかしそれでも、それはかなり大まかな妥協点であり、更にカップを注意深く、精緻に繰り返すことによって(カッピング項目のマウスフィール・アフターの良否に集中します)、許容範囲である上下のガス圧の中に潜む、理想的なピンポイントのガス圧が発見できます。

このピンポイントこそ、マウスフィールやアフターを劇的に改善させてくれるのです。

(そして、このピンポイントのガス圧は、後半のドライディスティレーションの段階においても、決定的な役割を担っていることは、次章以降に検証します。)

このピンポイントのガス圧を特定できれば、それを固定して、豆ごとに投入時の釜の予熱を微妙に変化させることによって、投入から5分30秒で豆の表面温度が167℃に至るペースを、安定して導き出すことができます。

まずもって、ピンポイントの最適なガス圧があり、そのガス圧のもとで、豆の種類・そのコンディション・季節の変動ごとに、釜の予熱を調整することによって、目標とするペースを作り出すことができということです。

では具体的に、このガス圧の上限・下限を探りながら、ピンポイントのガス圧を探っていきます。

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ダンパーを閉めて、釜を空焚きにして、ある一定以上の温度になったら、バーナーを消します。

内部温度や豆の表面温度は徐々に下がってきます。

(実際は釜を加熱して、投入温度に至ったら、投入したり、今回のように一旦投入温度以上に加熱して、下がってきたら投入したりといったように、投入方法はいろいろあります。また、ダンパーの開閉もこれに絡んできます。これら様々な操作は、季節変動の中で安定したボトムを作り出すための所作にすぎません。これも章を改めて検証します。)

そして、内部温度(排気温度計)が245℃、豆の表面温度計が235℃となった時点で、豆を投入し、ダンパーを開放して、ガス圧を100hpに設定し、その後ガス圧を固定したまま、投入から5分30秒後に167℃に至るペースが、現時点でのベストの焙煎とします。

(勿論、豆の種類、コンディション・室温・生豆の温度等の変化によって、投入時の温度を変化させなければなりませんから、これらは一定とします。)

(また、内部温度・豆の表面温度・ガス圧の数値は個々の焙煎機・計器の設定位置によって異なりますから、まったく参考になりません。論理をわかりやすくするために、具体的な温度とガス圧の数値を記述したとご理解ください。)

この現時点でのベストの焙煎条件から、ガス圧を120hpに上げてみます。

この場合、投入から5分30秒後に167℃に至るペースを作るには、投入時の釜の内部温度を230℃に15℃下げ、同じく豆の表面温度も15℃下げて220℃に下げることによって可能になったと仮定します。

そしてその結果、カップはマウスフィール、アフター共に悪くなったとします。

この場合、酸の明るさやフレバーの輪郭の明確化によって、実際クリーンが向上しますが、マウスフィールの悪化が顕著で、アフターもそれを引きずって悪くなります。

ガス圧の功罪は、相対的に強い場合、前半の段階においても明るさやフレバーの輪郭がアップして、印象度がアップしますが、それに反してマウスフィールやアフターが歪んでしまいます。

このガス圧による、印象度とマウスフィールの矛盾する相関関係は、克服すべき最大のテーマである思います。

実際、焙煎の後半のドライディスティレーションの段階になると、この現象がもっと顕著になってきます。

甘さや滑らかさ、そしてフレバーがもたらす最大の印象度とマウスフィールとの矛盾が出てくるからです。

ガス圧を上げ、甘さや滑らかさ・フレバーを強調して印象度をアップすれば、必ずマウスフィールの悪化という現象が生じます。

こんどはマウスフィールを改善すべく、ガス圧を修正すれば、甘さや滑らかさ、フレバーの印象度はグッと落ちてしまいます。

ガス圧が、前半においても後半においても非常に重要なポイントであること示唆しています。

次は逆に、ガス圧を80hpに下げてみます。

この場合、上記のペースを作るためには、投入時の釜の内部温度を255℃、豆の表面温度を245℃で投入することによって、ペースを維持できたとします。

その結果、カップはクリーン、マウスフィール、アフター共に悪くなったとします。

この場合、特にクリーンの印象度が阻害され、マウスフィール・アフターも悪くなります。

芯に水が残ったまま、焙煎が勝手に進行してしまうからです。

ねっとりとした重い酸が、クリーン、マウスフィール、アフターを阻害してしまうのです。

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以上の結果として、消去法により判断すれば、100hpがやはり良かったと判断できます。

しかし、ここで妥協するのではなく、理想的なピンポイントのガス圧を特定するためには、さらに精緻な検証をしなければなりません。

ここからがとても重要なのです。

この辺りから、カッピングスキルの差によって、検証の良否が出てきます。

微妙な差のため、カッピングを繰り返していると、皆良く思えてきて、わからなくなってくるからです。

特に厄介なのはマウスフィールで、クリーンに問題なければ、マウスフィールが気になっていても、繰り返しているうちに、気にならなくなってくるからです。

確固たるカッピングスキルがあれば、何ら問題なくこのピンポイントを発見できると思いますが、このマウスフィールの領域はかなりの経験を経ないと難しいと思います。

これを克服するために、僕は必ずスタバの豆も一緒にカッピングに加えて、比較検証しています。

スタバの焙煎度・豆の種類・その品質レベルは度外視し、焙煎におけるクリーン・マウスフィール・アフターを基準として、自分の豆と比較します。

要するにこれらの領域におけるお手本として、最適なのです。

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次に、ガス圧を110hpや90hpに変化させて、100hpのものとカップを比較します。

110hpの場合は、120hpよりもややましになったけれども、注意深くカップをすれば、100hpのものよりは、やはりマウスフィールやアフターが劣っていると判断できたとします。

この段階で、スタバと比較して、マウスフィールやアフターを注意深くカップをすれば、やはり100hpが良くて、110hpや120hpは劣っていることを確認できれば、カップは間違っていないとお思います。

この辺りに来ると、直感として100hpも違和感があるよう思えてきます。

120hp、110hp、そして100hpとスタバの比較において、マウスフィールやアフターの微妙な差を感じているからです。

最終的に100hpと90hpを比較することによって、その直感が正解であることが分かります。

実際、90hpは劇的なカップの変化をもたらします。

マウスフィ―ルが向上し、甘さや滑らかさが改善されます。そして、アフターも改善され、スタバの焙煎と同じレベルに至ったカップが出てきます。同じ土俵に登れたのです。

それは、まさにピンポイントであり、具体的にはマウスフィールの領域において、今までの違和感が清算された、画期的な次元に至ります。

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今回は、焙煎工程前半の理想的なガス圧を検証しました。

今回を含めて、短時間焙煎のエッセンスを総括すれば、

*投入量を思い切って少なくすること。

*投入から5分30秒前後に豆温が167度に至るペースを作り出すこと。

*上記のペースを可能とする、釜の予熱(投入温度)とガス圧の相関関係を探ること。

でした。これらの検証過程から、短時間焙煎におけるピンポイントのガス圧を探りました。

このピンポイントのガス圧は、劇的にカップの改善をもたらします。

そして、このピンポイントのガス圧が後半のドライディスティレーションの段階においても最も重要なファクターであることも次回に検証します。