マウスフィールからの解 Ⅱ

004_682x1024前回までは、焙煎の前半における水抜けのピンポイントを探ってきました。

それは、投入量・投入温度、そしてそれらとガス圧の連関を探りながら、投入から水抜けまでの最適なペースを模索することでした。

その結果、思い切った投入量の減量と、十分な釜の予熱の確保で、投入から豆の表面温度が167℃至るまでのペースが、5分30秒前後に落ち着くのがベストであると結果がでました。

そしてこんどは、その過程で導き出されたベターな投入量を固定して、投入時の釜の予熱と、ガス圧の連関をさらに詳細に探り、最適なピンポイントのガス圧を導き出しました。

このピンポイントのガス圧は、水抜きの時点で、これ以上のガス圧ではカップが歪み、以下ではカップが向上しないというガス圧でした。

そして、このピンポイントのガス圧は、焙煎の前半のみならず、後半のドライディスティレーションの段階においても重要なファクターになります。

前半と同様、これ以上のガス圧では、やはりカップが歪み、これ以下では進化不足=カップが向上しない結果になります。

これは、焙煎の前半・後半を貫く、焙煎そのものの隠れた重要なファクターであるようです。

《焙煎における前半の水抜けや、後半の成分進化の良否は、豆の表面温度の進行ペースによって左右されますが、その主導権を握るのは、あくまでも釜の内部温度です。

そして、その内部温度を直接に左右するのがガス圧です。

自由自在にガス圧を変化させて、豆の表面温度の進行をコントロールすることが出来るわけです。ペースが遅ければ、ガス圧を上げ、早ければガス圧を絞れば、ペースを修正することができます。

まさにその通りなのですが、しかし理想的な豆の表面温度の進行ペースを作り出せても、一定以上にガス圧が高すぎたり、また低すぎる場合(投入時の釜の予熱が低すぎたり、高すぎた結果でもあります。)にはカップが悪化しました。》

このへんもふまえて、後半を探っていきます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

後半のドライディスティレーションの段階に移ります。

前半の検証同様、後半も水抜けから終了(釜出し)までの豆の表面温度の最適なペースを模索することが、その主要なテーマになります。

それは釜の内部温度をコントロールすることによって、豆の表面温度の進行ペースを探ることにほかなりません。

焙煎の後半は、コーヒーの成分が最もダイナミックに進化する過程で、カップにおけるスイート・マウスフィール(特にストラクチャ)・フレバーの領域において決定的な役割を担います。(勿論、素材の検証カップではなく、焙煎がもたらす検証領域です)

このスイート、マススフィ―ル、そしてコーヒーの最大の魅力であるフレバーは、釜の内部温度が一定以上に上がって、尚且つ一定以上の時間を経ないと合成されません。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                

ということは、後半の最大の課題は、いかに釜の内部温度を上げて、適正な時間を経て、成分を進化させることにあります。

それは、意図的に上げた内部温度と、最終的に釜出しの目的とする豆の表面温度に至るまでの時間との相関関係を検証することにほかなりません。

ここで、ある程度焙煎を経験された方ならば、内部温度とラストまでの時間との相関関係が相反することはお気づきと思います。

相対的に内部温度が高ければ、釜出しの目標とする表面温度までの時間が短くなり、内部温度が低ければ、目標とする表面温度まで時間が長くなります。

このことは内部温度を高くすることと、釜出しまでの時間を十分に確保することは矛盾することになります。

ところが、成分の進化は、一定以上の高い温度で、一定以上の時間をかけなければ、上手く合成されないようです。

ですから、焙煎の後半における最大のポイントは、引き上げた内部温度をどうコントロールするかにつきます。

前半で水が抜けたら(=水抜き工程は内部温度が相対的に低くいため=)、一気にガス圧を上げて、釜の内部温度を一定以上の温度(成分の進化に必要な温度)に引き上げます。

そして一定以上の内部温度になったら、素早くガス圧を引き下げ、内部温度を下げながら、釜出しまでのペース(豆の表面温度のペース)をコントロールするわけです。

具体的にはどのくらいまで内部温度を上げ、そしてそれが頂点となった後、どのくらいまで下げることによって、最適な豆の表面温度の上昇ペースを探ることになります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

003_682x1024検証から、釜の内部温度は約230℃前後に引き上げることが必要と思います。

235℃~240℃前後になると、さすがに釜出しまでのコントロールがタイトで難しくなりますが、それよりも成分の進化自体が歪になる感じがします。

フレバーの印象度は230℃前後のものよりアップしますが、アフターが落ち着きがなくなり、浮ついたカップが出てきます。

そして、滑らかさとか奥行き(=ストラクチャ!)がなくなり、フラットな印象が出てきます。

要はマウスフィールがグッと落ちてしまいます。

(このことは投入量とペースの連関=内部温度との連関もあるようで、更に詳しい検証が必要と思います。)

後半も、またマウスフィールの検証をカップの要とすることによって、焙煎の核心にせまることができるわけです。

またこんどは、頂点を220℃以下に抑えた場合、その後の釜出しまでのコントロールは、格段に容易になりますが、スイートやフレーバーの領域(まさに印象度において)は魅力が半減してしまいます。

そして、スイートやフレバーのみならず、肝心要の滑らかさ、そして奥行きといったストラクチャーが奥に引っ込んでしまい(進化不足!)、これまたフラットな印象を否定できません。

やはり、マウスフィールが落ちてしまうのです。

かといって上限の230℃前後に上げ、それをそのまま維持すると、豆の表面温度の進行は、中段から後半に急激に進行してしまい、甘さや滑らかをスポイルしてしまう結果、マウスフィール、クリーンの領域で悪化するカップが出てきます。

以上の経過により、具体的には内部温度を230度に引き上げたら、すぐにそれを落としながら、表面温度の最適な進行ペースを検証していけばよいことになるわけです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

最初のポイントは、どの時点でカウントするかですが、僕の場合は豆の表面温度が167度に至った時点でカウントしています。

当たり前のことですが、最適な釜出しまでのペースを検証するためには、各自に定めたカウントする温度を必ず固定して、それを継続して検証しなければ意味がありません。

かといって、167℃の時点よりずっと後、水抜けを確認した以降の火力を一気に上げる段階や、その後のファーストクラックの段階でカウントすると、釜出しまでの時間があまりにタイトになり、後半の全体像が見えにくくなります。

焙煎の迷路にハマり込んでしまう原因もここにあります。

これよりもっと早い段階でカウントすれば、水抜けや、ファーストクラックまでの過程を見据え、かつ釜出しまでの流れを把握することができます。

後半の全体像を把握して、そのコントロールの妙を感じ取る事が出来るわけです。

(ストップウオッチを2個用意して、1個は投入から終了までの時間を把握し、もう一個で後半のはじめからペースを把握すれば、さらに全体像がよく見えると思います。)

このことは時間軸と温度軸の関係をグラフ表示すれば、より具体的に理解できます。

横軸に時間軸を取り、縦軸に温度軸を取れば、後半の課題は“グラフの傾斜そのものをどう決定するか”ということにほかならないからです。

そして、ここからが重要なのですが、このどちらかの軸を固定して、もう片方の軸を変化させて検証していくことです。

往々にしてあるのですが、両軸=すなわち時間や温度を思いつきで、バラバラに検証していては核心に近づことはできません。これも僕や仲間たちが過去に陥って、焙煎の迷路にハマり込んでしまった原因でもあります。

具体的には、温度軸を固定して、そこに至るまでの時間を変化させることが手っ取り早く“最適な成分進化のペース”を導き出せると思います。

そして尚且つ、豆の表面温度を190℃とか195℃といった浅煎りの段階で検証することをお勧めします。

僕は豆の表面温度が194℃に至るまでのペースを検証しました。

豆の表面温度が167℃に至った時点(投入から5分30秒前後)でカウントして、そこから豆の表面温度が194℃に至るまでの時間を変化させることによって、浅煎りの最適な時間を検証するわけです。

検証を中煎りや深煎り領域の温度帯にもっていっても良いのですが、手っ取り早く、最短の浅煎りの温度帯で検証したほうが早く結論が出ます。

それは、最初に浅煎り194℃の最適なペースを掴み、そこから1分で豆温が5℃上昇するペースを維持すれば、その後の適正な成分進化が保証されるからです。

浅煎りを決定すれば、その後の中煎りや、深煎りのペースが必然的に導き出されるわけです。

甘さや滑らかさ、すなわちマウスフィールを満足させる194℃に至るまでの時間が導き出せたら、こんどはそこから1分後に4℃上昇の198℃、5℃上昇の199℃、6℃上昇の200℃を検証すれば、どのペースが妥当かはすぐに結論が出ます。

4℃でも6℃でもマウスフィールは不十分で、5℃が充実するカップが出てきます。

進行が遅くても、早くてもマウスフィールが完結しないわけです。

4℃(傾斜は低くなります。)では成分の進化不足が原因で、甘さや滑らかさそのものが合成されていません。

6℃(傾斜が高くなります。)では成分の進化が歪になり、やはり甘さや滑らかさが、奥に引っ込んでしまい、感じられません。

このようにマウスフィールを要として、カップに集中すると、後半の最適な成分進化のペースが把握できるわけです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

005_682x1024より具体的に記述すれば、豆の表面温度が167℃に至ってから、別のストップウォッチであらためてカウントします。

その後、サンプルバーで水抜けの状態を匂いで探りながら、内部温度を引き上げるタイミングを探っていきます。

豆の臭気が重いもの(蒸気の存在)から、ふっと軽やか(蒸気を感じない)になったらOKのサイン、ガス圧を一気に最大限に引き上げて、内部温度を上昇させます。

そして、釜の内部温度が230℃前後になったら、こんどは一転、ガス圧を素早く下げて、ファーストクラックを待ちます。

ファーストクラックは、これまでの過程が適切ならば、投入から7分30秒~8分の間に迎えます。

クラックが活きよいよく進行していく過程の中で、釜の内部温度を下げながら、豆温の最終着地点を探っていきます。

カウントからおよそ4~5分の間に、194℃を迎えるペースを探っていく作業を繰り返すことによって、最適な時間を探れば良いとお思います。

最大値230℃に引き上げた内部温度を、225℃⇒220℃⇒215℃と引き下げながら、豆の表面温度が194℃に至るまでの釜出しのタイミングをずらしながら検証して、最適なペースを模索することになります。

その過程から、カウントから4分30秒前後に、豆の表面温度194℃に至るのが、最適なペースとお思います。

そして、焙煎が厄介なのは、豆の状況(産地、高度、硬さ、クロップの経過年月、スクリーン等)よって、内部温度変化と表面温度の進行ペースの相関関係がバランバランで、一筋縄ではいかないことです。

特に高度、硬さが大きく作用しているように思われます。

これらも具体的に検証していきたいとお思います。