お客様が帰られた後、回収したコーヒーカップに飲み残しのコーヒーが多いことが気になり、「もしや?」と思って、あらためてカップしたコーヒーが、予感したように,思いのほか重たいため、愕然としてしまうことが多くなる季節です。
毎年、この季節になると焙煎が微妙に変化し、その根本原因はどこにあるのか?と日々悩みだします。
要は水の抜け方が悪くなっているのが原因なのですが、焙煎の基本自体が確立されていない段階で、この季節現象に至ると、基本の模索と季節変化の模索が入り乱れて、わけがわからないといった迷路に迷い込んでしまいます。
メールでのご質問もここに来て多くなり、その内容も迷路に迷い込んだ内容ばかりです。
焙煎を愚直に追い求める、真摯な方ほど、深刻になるようです。
これを防ぐためには先ず以て、焙煎の基本軸は変更しないこと。
絶対にぶれてはいけません。
現時点までの良かった焙煎パターンを堅持して、事の対処に望むことが賢明な対処と思います。
以下、対処方法を具体的に模索してみます。
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毎年のパターンは、5~6月に入って、平均湿度の上昇とともに、焙煎室の室温や生豆自体の温度が上昇しだした頃から、カップがおかしくなってきます。
その徴候は、ズバリ、ファーストクラックが遅くなってくる現象で把握できます。
具体的には、短時間焙煎であれば、通常8分から7分30秒の間に始まるファーストクラックが、8分たっても始まらず、後手にまわってくる現象が出てきます。
特にブラジルのナチュラル、パルプドナチュラルが曲者で、この現象が顕著に現れてきます。
従来よりファーストクラックの始まりが遅くなった結果、カップが悪くなり、その原因が水抜けが悪くなっているのですから、ファーストクラックを従来どうりの8分から7分30秒の間に収まるペースを取り戻す対応をすれば、カップは向上します。
では、そうするにはどうすれば良いか?
以下の対応策が考えられます。
*投入量を減量する
投入量を1割ほど減量して、従来の火力は維持し、投入からの進行ペースも維持します。
水が抜けにくい時期なのですから、量を減らせば元に戻るといった発想です。
しかし、このためには、従来どうりのペース(投入から豆の表面温度が167度で5分30秒に至るペース)を維持するためには、投入温度を下げて、その幅を調整なければなりません。
当然にそのことは、豆の種類ごとに適切な投入温度を再構築しなけければなりません。
この結果、改善された場合、投入量の最適キャパが、環境の変化に応じて変化すると解釈すれば、合点がいきますが、そもそも従来の最適投入量の検証が間違っていた可能性もあります。
また、後半の成分進化のペースを維持することも再度構築しなければならず、かなり厄介な方法になります。
*投入温度を落として、火力を上げる
従来の投入量は維持して、投入温度を落とします。
しかし、そのままでは、従来のペースが維持出来ませんので(より、クラックが後手に回ります)、従来のペースを取り戻すために、火力を上げます。
多くの場合、この方法によって水抜けは解決すると思います。
暗く、重かった印象が改善され、軽やかにブライトでフレバーもイキイキとしてきます。
しかし、そのガス圧が、焙煎機のキャパ=投入量におけるガス圧の上限を超えた場合、水抜けが改善して明るくなっても、どことなくアフターが歪になリ、クリーンが別の意味で悪くなり、結果としてカップは改善されません。
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投入量を増やしたり、あるいは投入温度を上げて、火力を下げることはこの季節において、意味を成さないことはお解りいただけると思います。
しかし、上記のように投入量を減量したり、火力を上げて、ファーストクラックの始まりを、従来どうりの8分から7分30秒に修正することが出来ても、カップが改善しない場合は、どう対処していいのでしょうか?
この場合、投入量や火力の更なる変更は、焙煎の軸がブレてしまい、焙煎の迷路に迷いこんでいまう危険性があります。
この段階に至り、ファーストクラックの始まり=8分から7分30秒=という基準が、かなり曖昧であったことを見直されなければならない段階に至ったと思います。
30秒という幅は、この季節において、許容されないのか、あるいは季節変化にかかわりなく、30秒という幅がそもそも曖昧であったのかを、検証しなければなりません。
直感として、まさに【水抜けの良否は、ファーストクラックが厳密に何時始まるかによって、判断できる。】という暗示を感じます。
それは、欧米において、伝統ある真っ当な焙煎業者やローストマスターによって引き継がれてきた焙煎ノウハウの核心の1つが、この時間帯にファーストクラックを迎えることであと思うのです。
以前、ACEのS氏が執拗にファーストクラック=7分30秒とこだわっていたのも、合点がいきます。
ともあれ、次回はファーストクラックが、8分から7分30秒以内のもの、そして7分30秒から7分に至ったものを、それぞれ繊細に比較カップすることによって、水抜けの良否を検証してみます。