低温焙煎と短時間焙煎 Ⅰ

P1030668_682x1024友人のきらきらと輝くコーヒーに導かれるように、前半の水抜き工程において、段階的にガス圧を下げていくと、僕のコーヒーもきらきらと輝き始めました。

もちろん投入から5分30秒で、豆の表面温度が167℃に至るペースを維持します。

そのためには下げたガス圧に対応する分、投入温度を上げていきます。

そしてガス圧が50Hp~45HPに至った段階で、僕のコーヒーも友人のと比べ遜色ないようにきらきらと輝くようになってきました。

ゆらゆらと消えそうな炎は、かつて恩師が,スペシャルティコーヒーの焙煎メソドを提案した時を思い出させました。

常識を覆す恩師の焙煎メソドに、スペシャルティコーヒー(=ニュークロップ)の焙煎はかくあるべき!といったイメージを強烈に刷り込んでしまい、闇雲に低いガス圧でトライしては、失敗を繰り返していました。

多くの仲間は早々に、このメソドに見切りをつけて、当時主流になりつつあった“高温短時間焙煎”に移行していきました。

しかし、当時と今回の場合の決定的な差は、前半の水抜き工程の時間の圧倒的な差にあります。

そもそも、投入からわずか5分30秒で豆の表面温度が167℃に至るのは、短時間焙煎そのもののペースで、当時では考えが及びもしなかった領域だと思います。

低いガス圧で、短時間焙煎を可能としたのは、まさに圧倒的な釜の余熱にほかなりません。

この結果を釜の内部温度の変化から見てみると、驚くべき数値が出てきます。

投入からの進行ペースを変化させないのに、釜の内部温度が20度以上も低くなっていたのです。

焙煎ペースが同じでも、釜の内部温度は20度も低くい!

そもそもこれが“低温焙煎”と言われる所以です。

しかし、低温でだらだらと焙煎しても全くだめで、投入からリズミカルに芯から水が抜けていく一定のペースがあり、それが短時間焙煎の領域ペースに入るくらいの早いペースなのです。

この本質的に矛盾する低温での水抜きと、短時間焙煎の融合の第一のポイントは、釜の余熱の確保と投入量の減量であったわけです。

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友人の焙煎は高温短時間焙煎であることは察しがつきます。

グアテマラの封を開けた時、シングルオリジンではなく、何かのブレンドか?と思ったほど、ローストの極端なばらつきがありました。

これはマイクロロットにたまにあるのですが、何らかの理由で、クロップの段階からすでにばらつきがあり、今回のグアテマラはかなりのばらつきがあったようです。

これを圧倒的な火力で、強引に焙煎すると、ばらつきがさらに強調されるように焙煎されます。

かなり早い焙煎であることが推測されます。

カップからも、投入してわずかの時間に、表面から焙煎が進行していくさまがうかがえます。

高温短時間焙煎は、水抜きの完了と、ドライデスティレーションの完了がぴたりと一致すればよいのですが、これがなかなか一致しません。

最悪なのは水抜けが終わっていないのに、ローストが先行してしまうことで、ひどいアフターが出てしまいます。

友人の場合は、水抜けが完了した時点で、オーバーロースト(この場合ドライデスティレーションの時間不足+高温によるロースト)気味になり、水抜けは良いのに、アフターが歪になってしまうことだと思います。

この水抜きが完了している領域での、短時間焙煎の欠点は、カッピングしていても、素材のオイル分のコーティングによって、その欠点が隠されてしまうという恐ろしい欠点があります。

素材がよいものだからこそ、なおさらにこの欠点が見えてこなくなるのです。

カッピングでは何ら問題ないと思っても、実際に、特にペーパーで抽出した場合、ペーパーによるオイル分の損失で、焙煎の欠点がカップに現れてきます。

要するに、表面焼けの欠点が抽出されたコーヒーカップに出てきます。

これはペーパーフィルターの欠点ではなく、焙煎の欠点なのです。

カッピングと同様に、今人気の金属フィルターによる素早い抽出は、この焙煎の欠点を補ってくれますが、どこかその本質を見誤っていると思います。

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P1030679_1024x682話を戻します。

低温焙煎は高温短時間焙煎に比べ、水が抜けた時点での釜の内部温度や、豆の表面温度が相対的に低いことです。

このことは、それ以降の後半のドライデスティレーションにおいて、高温短時間焙煎に比べ、不利な状況になっているわけで、素早く釜の内部温度を引き上げて、理想的なドライデスティレーションのペースに移行しなけれななりません。

当初、釜の内部温度が200~185℃の場合、水が抜けた時点で、フルバーナーにすれば、理想的なドライデスティレーションのペースに移行できました。

しかし、180℃の場合は、僕の改良型焙煎機(バーナーのパワーアップバージョン)をもってしても、理想的なドライデスティレーションのペースに全く移行できません。

およそ、時間として30~40秒ほど後手にまわってしまいます。

この30秒の後手は、悲しいほど、コーヒーの魅力をスポイルしてしまします。

友人のコーヒーのように、カップがきらきらと輝いてきても、香りがどこかすっ飛んでしまい、薄っぺらいものになってしまっています。

この30秒の後手を取り戻すためには、さらなるバーナーの増設が必要であることは、言うまでもありません。

メーカーにバーナーのノズルとプロパン用のチップを6個セットで購入して、近所の鉄工所で既存のバーナー本体に、鉄管を増設して、ノズルを増設しました。

増設したバーナーの設置は、ガス屋に依頼して、正式な手続きを取ります。

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点火して,化け物のような圧倒的な火力に、「少しやりすぎかな?」と不安になりましたが、多い分はガス圧で調整できるわけですから、問題はありません。

むしろまだ足らないことのほうが問題で、追加のノズルが入り込むスペースがないほどの目いっぱいの状況をみて、不安になってきました。

今後の投入量増加を視野に入れているためです。

しかし、焙煎結果は大正解で、浅煎りの焙煎でも、理想的なドライディステイレーションの上昇カーブに乗せることができました。

それは、水が抜けた段階から一気にフルバーナーにして、1分前後に釜の内部温度が230~240℃まで到達することが可能になったためです。

低温焙煎と短時間焙煎の融合の第二のポイントは、水抜けが完了した後、一気に釜の内部温度を上昇させることができる、圧倒的な火力が必須であることです。

次回からは、この第一と第二のポイントを、よりダイレクトに釜の内部温度と豆の表面温度との相関関係から考察していきます。

焙煎の核心に迫っていきます。

さすがスタバ!

P1030678_1024x682郊外型の量販店で,嫁さんがスタバの新しいブレンドを買ってきてくれました。

“カティ カティ ブレンド”。

清涼感のあるブルーグリーン系のパッケージデザインやゴールドの字体が印象的で、季節感や高級感の演出はいつも見事です。

以前に購入した、“アフリカ キタム”と同じくアフリカ系のブレンドで、ケニアとエチオピアのブレンドですが、気持ち浅くローストしています。

これも、季節に合わせたロースティングの妙で、スタバの憎らしいほどの演出です。

キタムの夏バージョンといったところでしょうか。

私たちの国内ロースターで、これほどのトータルバランスをもったロースターは残念ながら皆無です。

さて、カッピング結果です。

もうスタバは往年のスタバでなくなってしまったーーーーという思いが強いため、キタムとのローストの差やブレンドの比率、素材の質に集中して、カップをしました。

一口含んで、え!ホント?---------------

なんと以前のスタバに戻っていました!アフターの切れが復活していたのです。

さりげなく、こっそりと、何もなかったように、ローストを戻していました。

ここは僕の念願が通じた!

というより、ネット上も批判が多々あったようです。

こころある優秀な人材が、キチンとマネジメントを修正する、ダイナミックな企業をみる思いがします。

さすが、スタバです。

まっとうな人材が、意思決定を下せる立場にあるようです。

マクドナルドは、中国産の原材料問題などの外的要因がありますが、もっと以前に、価格や品質のマネジメントが修正できなかったのが最大の原因だと思います。

モスの美味しさは、日本人であればだれでも納得できます。コスト意識と美味しさのこだわりの微妙な兼ね合いが伝わってきて、つい応援したくなります。

マックは価格志向で堕落してしまいました。

こころあるまっとうな人材が、マネジメントの中枢に、いなくなったためだと思います。

要は、ハンバーガー屋ではなくなってしまったのです。

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いま、カッピングの構築のまたとないチャンスです!!!

キタム(現時点での店頭在庫)とカティカティを比較カッピングすることによって、焙煎によるアフターの差を習得できます。

歪なアフターと、切れの良いアフターの差をカップしてください。

今回、カップが前後して変化した原因は、憶測の領域になってしまいますが、カッピングからは投入量の変化から、時間の変化があり、アフターの変化があったと思われます。

最初のカップの悪化は、投入量が多くなり、焙煎時間の延長があり、そしてアフターが悪化したと、僕は判断します。011_768x1024_2

多くの国内ロースターと同じ轍を踏んでしまった、と思うのです。

この変更は意図的であれば、背後にはマネジメントの意思決定があったと思います。

コストを考慮した結果、そうなったのでしょう。

ワンバッチの投入量の変化が、ランニングコストにどう影響するかは、大手ほど切実になってくると思います。

イリ―の国内で販売されている商品も、同じカップが出てきます。

今回スタバは、投入量を戻した結果、すべてがもとの道理になったにすぎないと思います。

マネジメントの修正を、きちんと実行できるまっとうな人材がいるのでしょう。

以上は僕の憶測です。

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ところで、カッピングの習得はとても重要です。

カッピングの構築があって、焙煎の構築ができる!と言っても過言ではありません。

実は多くの方から、バッハグループの焙煎メソドについて、質問を受けます。

これは主催の田口さんが、実績から構築してきたノウハウで、僕自身とても共感するものです。

およそ焙煎の全体像をまとめたもので、まっとうな焙煎の集約と言ってもよいと思います。

ただ、カッピングからの客観的な評価ができていないため、焙煎の本質に今一歩踏み込んでいけない、もどかしさを感じます。

冷徹にカッピングによる検証ができていれば、焙煎メソド自体、もっと単純明快に要約=取捨選択できた、コンパクトなものになってくるはずです。

焙煎を志す方は、ぜひ!SCAJのカッピングセミナーを受講して、カッピング技能を、焙煎と並行して構築していってほしく思います。

恩師が徹底的にこだわったのは、カッピングのスキルビルディングにほかなりません。

焙煎⇒カッピング⇒焙煎の修正⇒カッピング⇒焙煎の修正、という気の遠くなるような日々の繰りかえしによってのみ、焙煎は修正され、構築されます。

焙煎を評価するカッピングは、①水はきっちりと抜けているか?②成分はきっちりと進化(ドライディステイレーショ)しているか?の2点からアプローチします。

このカッピングアプローチは恩師の焙煎メソドと符合するわけですが、カッピングアプローチ自体は純粋にカッピングの領域で、進化・要約されたものであると思います。

過去、欧州のローストマスターたちが議論してきた過程で、進化・要約されたアプローチであったわけです。

当然、このカッピングアプローチから演繹すれば、焙煎を前半の水抜き工程と、後半の成分進化の工程に分ける方法論が出てきます。

イタリアのたしかビクトリア?という焙煎機は、シリンダーが上下に分かれ、投入後、上のシリンダーで水を抜き、水が抜けたら下のシリンダーに移行して、焙煎を仕上げる構造だったと思います。

おそらく、シリンダーはパンチングの直火式で、最下位のバーナーの火力を強くしていれば、上のシリンダーでは遠火の強火が、下のシリンダーでは直火の強火が具現化できていたと推測できます。

そもそも、こういった焙煎機が発想されること自体、カッピングからの演繹があるわけです。

カッピングと焙煎の繰り返しによって、焙煎の構築がなされ、ハードである焙煎機自体が修正され、より進化してきた歴史があると思います。