前回は、低温焙煎メソドと短時間焙煎メソドを融合するための、2つのポイントを説明しました。
この矛盾する焙煎メソドを融合するためには、まさに大胆な発想が必要でした。
投入から水抜けまでは、だらだらと時間をかけるのではなく、てきぱきと一定の進行を確保するほうが、水抜けは良く(短時間焙煎の優位性)、かつ高温より低い内部温度のほうが、きっちりと芯から均一に抜けてくれるため、この矛盾を具体的にどう焙煎に落とし込むかが、第Ⅰのポイントでした。
火力(ガス圧)を落とした分、思いっきり釜の余熱を上げて、短時間での進行を確保した結果は、驚くべき現象がでてきました。
そして、いざ水が抜けたら、低い釜の内部温度をいっきに引き上げ、理想的な成分進化の温度ペースに乗せることが可能な、圧倒的な火力を確保しました。これが第二のポイントでした。
今回は第一のポイントを、釜の内部温度(排気温度)と豆の表面温度との相関関係から、焙煎の核心に迫ってみます。
ところが、今回、焙煎の核心をつかんだことで、個々の焙煎の問題点が明瞭に把握でき、その改善点が次々に出てくるようになりました。
ぼくのブログに、メールを送ってくれる方は、論理的でとても生真面目な方が多く、焙煎を始めるにあたっては、多くの変数=投入量・投入温度・ガス圧・ダンパー処理・室温・湿度・クロップの経過・産地の高度・・・・・等をめいっぱい抱え込んでしまっています。
それらの変数がどう影響しながら、焙煎にかかわってくるのかを、必死になって分析していいるのですが、これは多くの優秀なスタッフを抱えて、スパコンで解析することと同じで、個人でやれば、気の遠くなるような時間と労力が必要となります。
焙煎の迷路を自ら作ってしまっているのです。
焙煎は要約すると、“豆の表面温度の時間管理”にすぎません。
至極単純な結論なんです。
―――実はみんなこれを、必死で探しているのです。
たったそれだけのことです。
豆の表面温度を時間軸で変化させることによって、水抜けや成分の進化がどう変化し、それらの最適な解に至るペースを、特定することが焙煎の核心です。
豆の表面温度のコントロールは、釜の内部温度(=排気温度)のコントロールにかかわってきます。
実際、ガス圧を操作することによって、釜の内部温度をどのくらいまで上げたら、そして、どのくらい落としていったら、以後の豆の表面温度がどう展開していくか?を見据えて、コントロールしていきます。
釜の内部温度(=排気温度)を管理することによって、豆の表面温度の変化を自在にコントロールするのが焙煎技術の核心でもあるのです。
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前半の水抜き工程のポイントは、低い釜の内部温度で、短時間に水を抜くかでした。
釜の内部温度(排気温度)が180℃以下で、豆の表面温度が投入から、5分30秒で167℃に至る状況を作ると、水が芯から抜けてくれる状況を作ってくれます。
(これはあくまでも進行ペースで、水抜けの時点は、7分30秒~8分ころで、もっと奥になります。)
通常の高温短時間焙煎では、この時点(5分30秒で167℃)では、トータルの焙煎時間にもよりますが、内部温度が180~190℃前後に至っていますから、20℃以上の温度差になります。
(この20℃以上の差が、後半の成分進化では、高温短時間焙煎のほうが断然に有利なことはお分かり頂けると思います。)
そして、豆の標高差=硬さ・クロップの経過によって差はありますが、釜の内部温度のボトムは180℃以下で、かつ投入から5分30秒の時点でも、同じく180℃以下を維持すること、すなわち釜の内部温度をボトムから変化させないことが、水抜き工程の最大のポイントになります。
これは、釜の内部温度を変化させないで、豆の表面温度が、投入からのボトムを経て、急激な上昇ペースから、徐々にそのペースを落として、5分30秒で167℃に収束していくことになります。
しかし、この時点では水は、まだ抜けていませんから、サンプルバーで臭気を確認しながら、水抜けのタイミングを待ちます。
そして、投入から7分30秒から8分の時点で、水抜けがはっきりと確認できるようになります。
鼻腔に感じる重たい蒸気が、フッと抜けて軽やかになった時が、水が抜けたサインです。
丁度、口に含んだ重たいコーヒーが、軽やかなコーヒーに劇的に変化したイメージです。
そのイメージを水抜きの確認作業にダブらせれば、思いのほか簡単に、水抜けの確認ができます。