低温焙煎と短時間焙煎 Ⅳ

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投入してボトムに至った内部温度を、そのまま維持することによって、豆の表面温度が5分30秒後に167℃に至るペースが、水が芯から抜けるペースでありました。

しかし、この時点ではまだ水は抜けていませんから(あくまでも豆の表面温度の理想的なペースの途中経過です)、内部温度をそのまま維持しながら、水がきっちりと抜けてくれるのを待ちます。

そして、1分後の6分30秒を経て、2分後の7分30秒前後に至ったとき、大まかな水抜けは終了します。

その時まで勢いよく出ていた蒸気は勢いを失って、残りを絞り出すように出てきます。

この時点で、水抜けと判断して、火力をいっきに上げると、まだ芯に残っている水を残したまま焙煎が進行して、若干のレスクリーンが出てしまいます。

ここは焦らずに、注意深く水抜けに集中します。

すると、8分前後に至ると、豆自体がシュリンクして、蒸気を感じなくなります。

丁度、雑巾をさらにきつく絞って、手に水分よりも、雑巾の繊維質が感じ取られるといった感じで、鼻腔に“乾いた熱気”を感じるようになります。

この7分30秒から8分くらいの間に、セントラルやケニア・エチオピアなどは、水抜けのサインと共にフルーツやフローラルの印象がちらっと混じってくることもあります。

ここが水が抜けたタイミングで、すかさずフルバーナーにして、一気に釜の内部温度を引き上げます。

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以上は焙煎の前半で、今回からは焙煎の後半になります。

焙煎の後半は、ドライディスティレーション=豆の成分進化をいかに適正に進化させるかが最大の課題ですが、この段階でも豆の表面温度を管理することに他なりません

後半の成分進化を、きっちりと検証するには、前半と同じく豆の表面温度の変化を、時間軸でみていかなければなりませんから、スタート時点を決定して、以後それを固定することが必須です。

決定したスタート時点から、1分後の豆の表面温度、そして2分後・3分後・4分後、、、の豆の表面温度をどう変化させたら、理想的な成分進化ができるかを、検証するためです。

だから後半のスタートは、水が抜けて、いっきにフルバーナーにする時点から、スタートするのが道理のように思いますが、しかし、そう簡単に事がうまくいかないのが焙煎です。

恩師のメソドを必死になって、検証している頃、恩師が仰ったフレーズに、「水抜きはできるだけ、奥のほうが良い。でも、奥すぎるとドライディスティレーションが不十分になる、、、」があります。

奥のほうが良いとは、水抜きをできるだけ引P1030268_960x1280_2き延ばすということで、僕の焙煎でいえば、7分30秒くらいに至ったとき、全体に水が抜けた状況を確認しても、もう少し状況をみるために、あと20~30秒引き伸ばしたほうが、良い結果が出るということです。

このフレーズこそ、焙煎の前半と後半をつなぐ重要なポイントですが、当時は漠然と理解しつつも、真にその意味を理解することができていませんでした。

なぜなら、奥に行こうが行くまいが、ガス圧を上げる時点からカウントすればいいのだから、奥すぎると成分の進化が不十分になるとは、なぜだろう?と。

このことは、焙煎をトータルとして何分で焙煎するか?という従来の発想からとらえれば理解できます。

たとえば、焙煎10分の焙煎が、浅煎りとしてべストであるとすれば、水抜きを奥にすればするほど、フルバーナーから釜出しまで時間は減少します。

浅煎りのドライディスティレーションの非常にタイトな時間内において、わずか20~30秒、釜の内部温度を引き上げるタイミングが遅くずれることは、成分進化にとって死活問題になりうることは、理解できます。

そう考えると、恩師の仰られたフレーズも理解できるわけで、どうやらドライディスティレーションは水が抜けたか、抜けないかということではなく、投入からの一定の焙煎時間で、すでに始まっていて、後半のスタートは、実は前半の時点で始めなければならないことになります。

水が抜けて一気に釜の内部温度を上げる段階では、すでにドライディスティレーションは始まっていることが、焙煎をより複雑にしていることは確かです。

前半のいつごろから、後半のスタートをきれば、正確なドライディスティレーションのペースを見つけ出せるか?

次回からは、このあたりを徹底的に考察してみたいと思います。

低温焙煎と短時間焙煎 Ⅲ

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今一度、前半の焙煎をシュミレーションしてみます。

(具体的な温度数値は焙煎機やセンサーの位置によって、著しく相違し、具体的な細かい数値はかえって混乱を招きますから、できるだけそのエッセンスを絞っています。お分かりにならない点は、ご遠慮なくご質問ください。)

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釜の内部温度と、豆の表面温度が目的の温度にいたった時点で、豆は投入され、いっきにそれらの温度は下降します。

やがて、投入から1分40秒~47秒前後に豆の表面温度はボトムに達し、上昇に転じます。

その後遅れて、釜の内部温度もボトム温度に達し、上昇に転じていこうとします。

釜の内部温度は175℃以上180℃未満のボトム温度帯に収束しています。

その後、その温度帯を意図的に、微妙なガス圧の操作で、終始固定することによって、投入から5分30秒前後で、豆の表面温度が167℃に至ります。

そして、そのままの内部温度を維持していくと、2分後の7分30秒前後で大まかな水抜けは完了します。豆の表面温度はおよそ172℃~173℃前後と思われます。

サンプルバーで臭いに注意していると、この時点で大まかな水分は抜け、残りの水分をきっちりと絞り出す工程に推移していることが認識できます。

そして、きっちりと水抜きを完了させるには、さらに30秒ほど我慢して待つと、豆全体がシュリンクして、グッと小さくなってきます。高度が低めで、スクリーンが大きめのブラジルやインドネシアなどははっきりとその過程をみることができます。

およそ、投入から8分前後に、いままで鼻腔に感じた重たい蒸気が、フッと抜けて軽やかになります。

そして、一気にガス圧を全開にします。

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このように、前半の水抜き工程の最大のポイントは、釜の内部温度を上昇させないことであり、上昇させなくても上記の進行ペースを具現化する、投入時の内部温度や表面温度・投入量・ガス圧を特定することにことにほかなりません。

(それらを特定する前提条件として、他の変数/産地の高度=硬度・スクリーン・クロップの経過・室温などが考慮されるわけです。)

この結論は、友人のコーヒーに触発されて、最適な投入からの水抜きのペースを維持しながら、投入時のガス圧を徐々に落とし、それに対応して投入温度を徐々に上げるという作業を繰り返した過程で、たまたまたどり着いた結論にすぎません。

まさに偶然だったのです。

友人のキラキラと輝くカップと同等なカップに至ったとき、火力はゆらゆらと消えそうな火力であり、ボトムから釜の内部温度は、ずっとそのままを維持していたという結果でしたが、改めてその事実に思い至った時に、思わず背筋がぞくっと寒くなりました。

これは、まさに過去、スペシャルティーコーヒーを学び始めたころ、恩師が提案されたメソドそのものなのです!

サンプルロースターで炎を極力絞って、水が抜けるまでじ~~っと待ち、水が抜けたらすかさずガス圧をフルバーにする。そして、ハゼ手前で火力を落としながら、ラストのタイミングを計る。

当時、ゆらゆらと消えそうな炎をみて、「え~~?こんなんで焙煎できるの?」と半信半疑でしたし、案の定、実際の本焙煎も、うまくいったためしがありませんでした。

というよりサンプルローストではそこそこにロースト出来るのですが、本釜ではダメで、その原因が全く分からなく、どう本焙煎に落とし込んだらよいか見当がつきませんでした。

また、どういった局面だったかは忘れてしまいましたが、「釜の内部温度を上昇させない……」という、恩師の発したフレーズだけが頭の片隅に残っていて、このフレーズと今回の焙煎の結果もぴったりと符合します。

僕以外の多くのメンバーはこのメソドを封印して、当時流行しつつあった、欧米ロースターの高温短時間焙煎にシフトしていきましたが、いまこの段階において、恩師のメソドの本質が解明されたと思っています。