ドライディスティレーション《成分進化の実相》Ⅱ

P1030768_852x1280またまた脱線してしまいます。

実は多くの小型焙煎機のオーナーの方々から、低温焙煎メソドは小型の焙煎機では、余熱の確保が脆弱のため、うまくいかない、、、といったご意見を多くいただいていました。

確かに余熱を確保するために、投入前の釜の加熱方法は、ダンパーを閉めて、300度以上に引き上げて、ダンパーを閉めたまま温度を落とし、そしてまた引き上げてといった、手の込んだ操作が必要です。

実際1バッジごとに40~50分ほどの時間がかかり、短時間焙煎であるくせに、生産効率が実に悪い方法です。

しかしこうした過程を経て余熱を確保しても、1キロ釜などの小型の場合、投入量の関係から、余熱が少しでも高すぎると、コントロールが非常に難しくなる傾向もあるようです。

余熱の確保が脆弱というより、むしろ逆に余熱を持て余してしまう傾向のほうが多いように思います。

ずっと以前、井上製作所の井上さんが、たしか1キロの小型の焙煎機のシリンダーを1センチ!くらいの厚さのシリンダーを作り、それに交換して実験したことありましたが、それこそガスを切っても勝手に進行してしまったことを思い出します。

シリンダーの容量や余熱と豆の量の関係があり、小型になるほど難しく、あまり余熱に頼らないで、火力と余熱のバランスの取れた焙煎ノウハウを構築する喫緊の課題を痛切に感じました。

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何とか解決したい!といった思いと。今一つ自分の焙煎に一抹の不安を抱いていたため、10月からの1か月余りは、時間が許す限り、この検証に没頭していました。

具体的な方法論として、まず過度な余熱を避け、その分投入時の火力をアップして、時間と温度のバランスをとることが必要と思われます。

しかし、あくまでも水抜き工程の釜の内部温度はボトムから上昇させないことと、投入から5分30秒で、豆の表面温度が167℃に至ることが条件になります。

余熱を下げる限り、その分釜の内部温度の中点を上げないと、上記の時間制約が満たされません。

おそらく、177℃前後といった温度では時間がかかってしまい、180℃前後の内部温度かそれ以上の内部温度が必要と察しがつきます。

これらの要件を満たす焙煎を何回かトライすることで、大まかな結論が出てきました。

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まず、投入温度はダンパーを閉めて加熱し、釜の内部温度が240℃前後、豆の表面温度のセンサーが200~205℃になったら、豆を投入します。

(この温度関係になるには、1バッチ目と、2バッチ以降で若干違ってきます、ここではその詳細は省きますが、詳細を知りたい方はご質問ください。)

火力を従来より、強めにして、中点に至るペースを探っていくと、およそ1分30秒で、豆の表面温度が中点に至ります。

その後、遅れて釜の内部温度が中点に至りますが、初期火力が強すぎると、中点が高くなり、水抜きのペースが速くなってしまいますし、弱いと中点が低くなり、水抜きのペースが遅くなってしまいます。

結論から先に言えば、豆の表面温度の中点が110℃~118℃に至って、その後釜の内部温度が180℃~185℃に至り、その中点を火力の微調整で、維持することによっておよそ投入から6分30秒に豆の表面温度が167℃に至ります。

もちろんこの温度帯の幅は、投入する生豆の種類やコンディションで変わってきますが、火力の調整によって、釜の内部温度の中点を意図的にもっていくことが、最大の特徴になります。

(余熱が低い分、初期火力を強くして落ち込みを防ぎ、頃合いをみて火力を落として中点の着地点を探っていく操作は、前々回のAGFの焙煎とぴたりと一致します。)


P1030760_1280x852_2豆の表面温度の中点が高止まりした場合、火力の調整で、釜の内部温度の中点をいつもより、低くもっていけば上記の水抜きのペースに収まります。

ここで最大の疑問は、水抜けのペースは5分30秒で豆の表面温度が167℃に至るペースではなかったのか?なのですが、何回トライしても水抜けが不十分でした。

いままでの5分30秒で167℃は、余熱がかなり大きく、その分釜の内部温度が177℃前後でした。しかし、6分から6分30秒に伸びてしまうと、やはり水が抜けなく、アフターが歪になりました。

これらの結果から、水抜けのパターンは決まっているのではなく、余熱と火力の相関関係でかなりのパターンが在りそうです。

今回の新しい試みの場合は、投入から6分30秒に豆の表面温度が167℃に至るペースがベストになります。

今回のメソドのほうが、自分の釜でもカップは向上しています。

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ここでとくに注目すべきは、浅煎りの釜出しの時間が丁度11分になり、ジョージのフルフレバーローストの11分と合致することです。

もちろんジョージのこのデータは、HP上のかなり古いプロバット時代のデータであって、現在のスマートロースターのデータではない可能性が大ですが、ドラム式の焙煎機に限れば、合点がいくカップです!

そして、後半のドライディスティレーションがきちんと出来れば、フルシティ以降のカップはスタバと同レベルのパフォーマンスをしめします。

次回は前回のお約束どうり、後半の理想的なドライディスティレーションのカーブを模索していきますが、今回の小型の焙煎機のメソドで模索します。

ということは、後半のスタートが1分延びて、7分スタートでいきます。

ドライディスティレーション《成分進化の実相》Ⅰ

P1030744_852x1280恩師のメソド=焙煎工程を前半と後半に分け、前半を水抜き工程,後半をドライディスティレーションの工程とするのは、焙煎に対する最も理にかなった画期的なアプローチでありました。

しかし、何回やっても理屈通りにはいかず、失敗ばかりで、この画期的なアプローチの真価が見いだせなかった原因を、ここまでいろいろと探ってきました。

まず、前半の水抜き工程において、一般的な短時間焙煎より、釜の内部温度や豆の表面温度が相対的に低いことでした。

そのことがあだとなって、いざ火力を挙げる段階になって、通常の火力では後手にまわってしまって、後半のドライディスティレーションが十分になされないことが解明されました。

その対応策として、バーナーを補強して圧倒的な火力=カロリーを確保することで、解答を得ることができました。

いっきに遅れを取り戻すことができる強力な火力を確保することによって、理想的なドライディスティレーションの上昇カーブに乗せることが可能となったわけです。

焙煎の後半は、この“理想的なドライディスティレーションの上昇カーブ”を解明することにほかならず、それは時間軸に対する豆の表面温度の変化を探ることになります。

(前回ご紹介しました、AGFの焙煎表をご参考ください。)

時間軸に対する豆の表面温度の変化で、成分進化の適否をカップで判断するわけですが,要は焙煎の最適なカーブ、=傾斜を導き出すことに他なりません。

通常、後半も急激なカーブで上昇させ、やがて緩やかなカーブで終息させていきます。

(前半もボトムから、急激に上昇し、やがて緩やかなカーブで、じっくりと芯から水を抜いていきます。前後似たような操作になり、山が2つ出っ張った形になり、何か意味があるように思います。通常の短時間焙煎が、ほぼ直線を成すからです。AGFのローストマスターもこの点を強調しています。)

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傾きを検証する以上、原点というか出発点を固定して、そこからの傾きを検証しなければ意味が全くありません。

原点がいつもぶれてしまうと、何度検証してもその正確な検証はできません。

画期的な恩師のメソドの真価が見いだせなかったもう一つの原因は、実はこの後半のスタートにかくされています。

この画期的なアプローチに拘れば、水が抜けた時点で後半のスタートを切るのが、だれでも常識だと思います。

しかし、これこそまさしくスタートがぶれまくっていて、何度やっても、上手くいきません。スタート時点の、時間においても、温度においても、それぞれがてんでバラバラで、大前提である出発点・原点の固定が出来ていないからです。

このことに気づいて、後半のスタートを一定の時点、たとえば投入から8分の時点で後半をスタートさせ、これを固定して検証を続ければ、解答が見えてきます。

前々回で書いた恩師の「水抜きは出来るだけ、後のほうがいい、しかし後過ぎるとドライディスティレーションが出来ない」というフレーズの意味もはっきりとわかってきます。

この8分の時点は、投入から水抜けにいたるまでの工程がぴったりと進行した、理想的な時点ですが、実際の水抜け云々より、とにかくこの時点を固定して、ここから後半のスタートをきります。

実際の水抜けが、8分10秒であったり、8分20秒であった場合、形式的に8分スタートですから、それぞれ10秒、20秒送れて、火力を一気に上げる結果になります。

以下詳しく説明しますが、とにかく8分スタートで、カップを繰り返していくと、投入から10分で、ある温度帯になると浅煎りの素晴らしい香味が合成される結果が出てきます。

その結果からスタートが8分でしたから、8分20秒でスタート《水が抜けて、火力アップの時点》させた場合、20秒遅れの10分20秒で同じ温度帯になれば、同じ結果になると思われがちですが、、これでまったくだめで、この場合もあくまでも10分で、その温度帯になっていなければなりません。

これはもう決まっていると解釈してください。その検証はとりあえず後の課題として、とにかく10分のとき豆の表面温度が192度前後(釜の内部温度が230度~240度)にいたっていれば、浅煎りの理想的な甘さやフレバーが合成されます。
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8分スタートのとき、豆の表面温度が仮に173度で、釜の内部温度が177度としますと、わずか2分で豆の表面温度が約20度、内部温度が50~60度上昇したことになります。

異常な温度上昇から察してただけると思いますが、この貴重なデータを得れたのは、バーナーの増設による、大幅なカロリーアップのおかげです。

(通常の焙煎機で、この焙煎アプローチをしてもまったく意味がなく、過去何度トライしても好結果、すなわち低温短時間焙煎の真価が得られなかったことがお解かりいただけると思います。)

わずか2分というタイトな時間内に、内部温度を急上昇させることが必須であることから、実際の火力アップをさらに後ろに10秒、20秒ずらすことは、よりタイトな時間、すなわち1分50~40秒内に、上記の温度帯にもっていかなければならないことになります。

仮に焙煎機のカロリーが少しでも脆弱であれば、10秒後の2分10秒で火力をアップしても、カウントから2分、投入から10分に180度代後半に持っていくのが精一杯になり、若干の進化不足(アンダー)に陥ってしまいます。

20秒~30秒ならまったくのアンダーな結果となります。

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以上の結果から、後半のスタートは水抜け云々ではなく、とにかく特定の時点を決定して、毎回それを固定することで、後半のドライディスティレーションが見えてきます。

水が抜けた時点ではなく、もっとそれ以前の段階でドライディスティレーションの進行は始まっていて、水抜けの後半とドライディスティレーションの前半が交差しているゾーンがあり、そのどこかからの時点から、スタートを始める必要があるようです。

とにかく、スタートの時点を決定したら、その軸がぶれることなく、検証を続けていくことが、理想的な焙煎カーブを導き出す結果となります。

ここではとりあえず、投入から8分の時点としましたが、これではあまりにも、後半間際のバタバタした時点ですので、もう少し前にいって、6~7分台のほうが良いと思います。

そのほうが、水抜けから火力アップ、アップから火力を落として釜だしに至るまでを鳥瞰することができ、焙煎の実相がより見えてきます。

この実相から、クリーンの周回変化とか、念願であったストラクチャの構築の周回変化まで見えてくるのです!

ストラクチャの構築は焙煎の後半が大きく作用しているようです。

次回は投入から6分の時点でスタートを切り、その後ラストの釜出しまでを、シュミレーションしてみます。