ドライディスティレーション《成分進化の実相》Ⅳ

P1030804_1280x852前回は投入から7分の時点で後半をスタートさせ、1分ごとに釜の内部温度と豆の表面温度をチェックしながら、最適なロースティングポイントを探りました。

僕の場合、別にもう一個ストップウォッチ用意して、7分の時点でスタートさせています。

時間チェックに集中したいためなのですが、一個のストップウッチで十分であればそれにこしたことはありません。

7分からのスタートから、水抜けの確認・火力のアップ・適正な焙煎カーブ、の流れに従って検証していき、最初の浅煎りのロースティングポイントを特定することが、第一のポイントです。

それは、この浅煎りのポイントさえ特定できれば、中煎り以降のロースティングポイントはほぼ特定できたことになるからです。

経験値から、浅煎り以降の上昇カーブは1分単位で5度上昇が、正確な成分進化をあらわすと思います。

特定のロースティングポイントが決まれば、次のロースティングポイントまでは1分後に5度上昇させればよいわけで、ライトローストのポイントが10分30秒で豆の表面温度が192度であれば、次のミディアムローストは1分後の11分30秒で豆の表面温度が197度であればよいわけです。

そしてミディアムローストの1分後の202度がハイローストになり、その1分後の207度がシティローストのロースティングポイントになるわけですが、ここで注意すべきは、上記の各段階のローストの名称はあくまでも、それに近いというだけで、正確な表現ではありません。

温度と時間の関係を、カッピングによって精緻に判断した結果であって、それがたまたま浅煎りであったり、中煎りであるわけで、最初にローストの段階を決めて焙煎のアプローチをしているのではありません。

最初のポイントの10分30秒の場合、10分ジャストから11分までの1分間に、豆の表面温度を微妙に変えていって、カッピングで検証してきた結果、10分30秒で豆の表面温度が192℃前後が、ベストであったわけです。

たとえば、10分で180℃、184℃、188℃と変化させ、10分30秒で184℃、188℃、192℃と変化させて、カッピングをしてみると、10分の180℃、184℃、10分30秒の184℃、188℃はともに進化不足のカップがでてきます。

いわゆるアンダーなわけですが、アンダー気味であっても、それなりに魅力を感じるのは10分30秒の188℃です。

ボディや甘さ、フレバーがやや薄っぺらいのですが、トータルとしてまとまった形が作られています。

カップで言えば、クリーンでストラクチュアリで、飲料としての合格ラインに達しています。

あとは甘さやフレバーの厚みが足らないだけです。

このことから、10分30秒において、もっと豆の表面温度が上昇していれば、甘さやフレバーが増すのでは?という次のステップが見えてきます。

実際に豆の表面温度をさらに上げていけば、カップは向上します。

しかし、現実は多くの国産焙煎機ではこの温度帯に持っていくのは無理で、バーナーの増設が必要になります。

水抜けを確認して、釜の内部温度を一気に上げるタイミングが、投入から8分30秒で、そのときの内部温度が183℃前後ですから、わずか2分後に内部温度が60℃上がって、240℃前後に上昇していなければ、豆の表面温度が190℃以上にならないからです。

P1030805_1280x852低温短時間焙煎は、前半を低い温度で進行させるため、中段から後段にかけて、短時間の間に一気に内部温度を上げて、ドライディスティレーションの遅れを取り戻す必要があるわけです。

この点、高温短時間焙煎は投入から8分30秒の時点で、内部温度が190℃~200℃前後にいたっていて、かつ豆の表面温度が180℃台後半に至っていますから、じっくりと余裕を持って、ドライディスティレーションを進行させることが出来ます。

しかし、この高温短時間焙煎の場合、中段での水抜けの段階で、表面からのローストの進行がかってに進行してしまい、アフターの欠点を作り出してしまっていることは、以前から指摘してきたとおりで、この欠点を克服するために低温焙煎のアプローチがなされたわけです。

具体的には、中段からの水抜けにおいて、芯からしっかりと抜くために、外側からのローストを抑えてやればよいわけで、それはこの時点で釜の内部温度をいたずらに上げないことであったわけです。

その結果として、後半の入り口で釜の内部温度が、高温短時間焙煎より相対的に低いわけでした。

このように、高温短時間焙煎と低温短時間焙煎の時間帯とその温度差がはっきりと認識できてくれば、焙煎の実相が見えてきます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

話が少しずれました。

10分30秒で192℃がOKで、同じく188℃もそれなりにOKなら、10分で188℃もよさそうなのですが、どうもカップがしっくりしません。

10分30秒の188℃より、早い段階で同じ温度になっているので、より向上していてもよいはずです。

やがて、10分で188℃のカップを注意深くとっていると、ある欠点が現れてきます。

ドライディスティレーション《成分進化の実相》Ⅲ

P1030779_852x1280_2
前回は小型の焙煎機に適した低温焙煎のノウハウを模索しました。

具体的には、過度に余熱に頼らずに、その分火力をアップして、若干の高い内部温度と時間の延長で、水抜き工程がうまくいくことを検証しました。

その詳細な論理は今後検証していくこととして、今回はこのノウハウで前半の水抜き工程を経過した後の、後半のドライディスティレーションを詳細に検証していきます。

投入から、6分30秒で豆の表面温度が167℃・その時の釜の内部温度が183℃前後で経過します。

———————————————————–

前々回では、後半のドライディスティレーションの最適な上昇カーブを検証するために、後半をいつスタートさせるかを検証しました。

その結論として、水が抜けた段階で後半をスタートするのではなく、投入からの一定時間をもってスタートさせ、それを維持して検証していくことで、後半のドライディスティレーションの最適な上昇カーブを検証することができました。

このことから、どうやら水が抜けたらドライディスティレーションが始まるのではなく、水の抜け具合とは関係なく、投入からの一定の時間と温度に至れば、勝手にドライディスティレーションは始まっているようです。

理屈に拘っていると、なかなか思い至らないのですが、後半の核心はここにあります。

投入から釜出しまでを、いっきに進行させる高温短時間焙煎のほうが、多くのロースターたちに受け入れられたのも、こうしたドライディスティレーションの最適カーブを導きやすいからです。

下手に“水抜け”に拘ってスタートの時点でブレまくっていると、いつまでもその核心が見えてこない訳です。

しかし、高温短時間焙煎の欠点は、水抜けとドラィディスティレーションの微妙な接点を把握することを放棄していまっているため、ドライディスティレーションが満足に出来ても、アフターの領域においては、欠点を露呈させてしまうことです。

甘さやフレバーが印象的でも、ヒリヒリとした刺激的なアフターが常に付きまとうことになります。

高温で短時間であればあるほど、甘さやフレバーの印象度は良くなりますが、アフターはもっと刺激的なものになります。

極上の素材や優秀な熱風式焙煎機であれば、アフターの違和感はある程度おさえられますが、所詮高温短時間焙煎では完璧な焙煎に至ることはできません。

焙煎を水抜きと成分進化の工程に分け、それぞれの工程を精緻に検証していくことで、やがてその接点において、焙煎の全体像が始めて把握できてきます。

焙煎の理想は水抜けの大まかな終了と、ドライディスティレーションの始まりができるだけ一致する微妙な接点を模索することになります。

まずは理屈より、具体的な数値で検証していきましょう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

P1030770_852x1280
投入から、6分30秒で豆の表面温度が167℃・その時の釜の内部温度が183℃前後で前半を進行させたら、別のストップウオッチでカウントを始めます。

この時点ではまだ、水は抜けていないのですが、焙煎の中段から後段全般を鳥瞰しながら、水抜けの段階とか、火力を一気に上げるタイミングとか、ドライディスティレーションの適正なカーブとかを検証するために、ここからスタートします。

適正なドライディスティレーションのカーブを模索していくには、1分ごとの時計周りで、豆の表面温度を変化させていくわけですが、投入時からのストップウォッチと30秒ずれているため、全体の流れと後段の流れをいっちさせて、把握しやすくするために、7分の時点でスタートさせたほうがよいでしょう。

これから、投入から7分の時点からスタートして、何分後に豆の表面温度が何度になっていないと、成分の進化は十分になされない、、、、という原理を探っていきます。

スタートする7分の時点では、まだ水が抜けていませんから、内部温度183度を維持していきます。1分後の8分の時点でもまだ水は抜けきっていません、そのまま内部温度を維持していきます。

やがて、スタートから1分30秒《投入から8分を過ぎ8分30秒》にさしかかったころ、豆がシュリンクし始め、水抜けのサインが出てきます。

このタイミングを逃さずに、すばやく火力を最大にして、釜の内部温度を一気に引き上げていきます。

2分後の豆の表面温度と内部温度、3分後の豆の表面温度と内部温度をチェックしていきます。

3分ごろに釜の内部温度が240度前後に上がっていれば、3分30秒《投入から10分30秒》で豆の表面温度は190~192度に上昇しています。

このタイミングで落とせば、浅煎りのローストが完成します。

そして、さらに1分後の4分30秒《投入から11分30秒》の豆の表面温度、2分後の5分30秒《投入から12分30秒》の豆の表面温度を変化させて、結果をカッピングで評価していきます。

ガス圧を上げてから、豆の表面温度の上昇カーブは、浅煎りまでは高い勾配ですが、その後は緩やかな勾配になって、終息していくパタ-ンであることは想像がつきます。

次回は、その勾配=具体的に何度上げればいいのかを検証していきます。