温度センサーの設置

このブログを始めてから6年、最近は焙煎を数値で語ることの難しさを、つくづく感じています。

解り易くするために、具体的な焙煎時間とか豆の表面温度などの数値をあげて説明しても、それがかえって逆効果で、全く役に立たない!という現実を突き付けられ,愕然としてしまう日々です。

原因は、そもそも各自の焙煎機が多種多様で、それぞれの温度センサーが示す数値はみなバラバラだからです。そんな状況で、僕の数値をトレースしたところで、同じ結果が出るはずがないわけです。

これは最初から解りきったことでもあり、僕も承知していたつもりですが、改善されずよくならないといった不評が多く、改めて新たな方法論の必要性を感じました。

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思うに、恩師の下で勉強会に参加していた仲間どうしの焙煎議論では、こうした数値の差による違和感はなく、検証結果もほぼ一致していました。

焙煎機もローヤルの半熱風型や、東京の富士珈琲機械の半熱風型、プロバットの旧L型などで、カロリーや容量が大きく違っていても、例えば空だきした時の排気温度と豆の表面温度のセンサーが示す温度の相関関係は大まかに一致していました。

それは構造がドラム型で、ドラムの下にバーナーがあり、その熱量をドラムの上方より強制排気する構造が同じであったこと、そして豆の表面温度を精緻に計測するため、全員が意図的に同じ位置にセンサーを設置していたことが、最大の理由です。

排気温度(釜の内部温度)を計測するセンサーの位置はメーカーが違っても、その位置はほぼ同じで、かつ上記の構造上の類似から、ほぼ同じ数値を示します。

しかし、豆の表面温度のセンサーは、そもそも豆の表面温度というコンセプト自体、当時は希薄で、メーカーオプションがようやく設定されていた状態でした。

そして、オプションでオーダーしても、センサーの設置はひどくいい加減な設置で、焙煎機正面、シリンダーの軸受けのやや右下側に設置して納品されていました。

《画像① 真ん中(軸受け中央、右下)にあるセンサーがメーカーオプションのもの。上部の投入口付近のセンサーが排気温度センサー・下部の前蓋右にあるのが豆の表面温度センサー。》

この位置は、シリンダーが左回転の場合、撹拌され上部に登った豆が落ちてきて、再び撹拌される中継点で、豆の投入量をある程度多く入れないと、センサーは豆の中に埋没してくれません。

少量の投入量ではセンサーがむき出しになって、上から落ちてくる豆がぱらぱらとあたる程度で、正確な豆の表面温度は測定できないことになります。

このように投入量を変化させて焙煎する場合、表示される表面温度はバラバラで、正確な表面温度ではなく、まともな焙煎は出来なくなります。

焙煎の大前提である短時間焙煎を成功させるためには、投入量を調節しながら、窯の最適な実質的キャパを見つけなければなりません。

特に小型の焙煎機ほどメーカー表示のキャパはあてにならず、思いのほか減量して投入しなければ、窯の最適な実質的キャパを見つけ出すことができませんので、豆の表面温度センサーの適正な位置が最も重要であることは、お分かりいただけると思います。

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ということで、豆の表面温度を正確に測定するするには、焙煎機の構造上豆が最も集中する正面排出口(前蓋)にセンサーを設置しなければなりません。

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そして少量焙煎の場合でも、きっちりとセンサーを豆の中に埋没させるには、出来るだけシリンダーの内面壁側に近づけることが必要です。

出来れば前蓋を外して、其処に透明なアクリル板をくっつけて、実際に豆を投入してみれば、豆がもっとも集中する位置が特定できます。

其処にセンサーの先端が埋没するように、前蓋に穴を開けてセンサーを取り付けます。

このとき、センサーを差し込みすぎると、前蓋を開放するとき、センサーとシリンダーの内側が接触して前蓋が開かなくなり、笑うに笑えない状況になりますから、注意が必要です。

《画像②は前蓋を開放した状況を、冷却器の下側から撮影したものです。
前蓋からセンサーが突き出ている状態がお分かりいただけると思います。》

そして、もっと厄介なのは、シリンダー内部の撹拌用の羽とセンサーが接触してしまうことです。

僕の経験上、ここに至って、多くの方はほとんど諦めてしまいますが、ここからが焙煎に対する本気度が試される!と思ってください。

この難題をどう克服するか?!!!!!!

答えは簡単です。

センサーの接触するところだけ、グラインダーで羽をカットすればよいことで、以外に簡単な作業です。

配管工事などを手がけている町のガス屋であれば、前蓋にセンサーの取り付け用のタップを切ったり、羽をカットすることはお手のもので、ガスの取引があれば簡単に応じてくれると思います。

《画像③はグラインダーで削った画像です。撹拌用の羽(右隅)がカットされている様子がお分かりになると思います。
左のシリンダーと軸受けを連結するホイールの表面も削られていますが、センサーの感知面は先端の数ミリでOKだそうですので、これに当たるまで挿入しなくても、正確な豆の表面温度は測定できます。》

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以前の焙煎機メーカーは以上のノウハウを蓄積していて、顧客からオプションの要望があった場合、以上の詳細な情報を顧客に説明できるかは大いに疑問でした。

手っ取り早く簡単に豆の表面温度を測定できる位置が、シリンダーの軸受けのやや下側にあったので、そこに取り付けたに過ぎないのです。

以前スペシャルティの御三家のディードリッヒの焙煎機も、こうした位置に温度センサーが取り付けてあり、唖然としました。

豆の表面温度の正確な測定の必要性は、ロースターからのフィードバックがあって、「****の位置に温度センサーを取り付けてください、*****が温度センサーに当たる場合は、そこを上手くカットしてください。」といった具合に、当初はロースターの特異なオプションに対応して設置されていたと思います。

ですから焙煎機メーカーとしても秘守義務のようなものもあって、なかなか表に出てこなかった経緯があると思います。

今では、スペシャルティコーヒーロースターの間では、〝暗黙の常識”になっていて、たとえばプロバットの中古を扱う専門店などでも、オプションで対応しています。

豆の表面温度を正確に測定することは、焙煎を精緻に構築するためには必須の項目です。

ぜひ設置をして,低温短時間焙煎にチャレンジしてください。

低温短時間焙煎の再考

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「そんなチョロチョロした火じゃあ、豆が煎れるわけねえだろ!!」

そういってよく先輩に怒られたことを思い出します。

当時(80年代)、焙煎は釜の容量の6割くらいの投入量で、終始一貫して強火で、15分前後で煎っていました。

およそどんな豆でも、上記の焙煎パターンを繰り返し、その再現技術を習得することが焙煎の目的でした。

多少のブレはあっても、一定の許容範囲にカップは納まっていて、突出した欠点がければOKでした。

(そもそも、当時カッピングという言葉は、産地や商社での商品の品質チェックを意味していました。それはネガティブチェックで、欠点を探し出すことが目的です。

僕も当時のクラシフィカドール(コーヒー鑑定士)に憧れていて、欠点項目を一生懸命暗記していたことを思い出します。アラ探ししても、アラがほとんど無ければ、最良であった時代だったのです。)

当時、先輩から焙煎は強火が原則と言われました。それは今も間違っていないと思います。

強火で焙煎することは、トータルとしての焙煎時間が比較的短いほうが、良好な結果が得られるという経験則からきています。

時間が短いほうが、まずフレバーや甘さが際立ち、活き活きとしてブライトな印象があるからです。

しかし、釜の容量と投入量の関係から、投入量が多すぎて焙煎時間が短い場合、水抜けが完全ではなく、飲むに堪えられない刺激的なカップになります。

だったら、焙煎時間を伸ばせば、刺激的なカップは収まるだろうと、火力を控えて焙煎時間を長くすると、フレバーやブライト感がスポイルしてしまいます。

結果としてカップ全体が暗くなり、アフターも別な意味での違和感、、、媚びた嫌味が出てきます。

それじゃあ、投入量を減らして、、、、

と、試行錯誤を繰り返すことで、妥当な焙煎時間と投入量と火力が出てきます。

釜のキャパの最適な投入量に至れば、妥当な焙煎時間とそれに対応した、火力が決定され、カップが劇的に向上します。

この時の時間や火力が、短時間であり強火であるわけです。

しかし、これを厳密にカッピングすると、向上したと思っても、フレバーやブライト感の印象度とアフターの違和感が織り交ぜられたカップが出てきます。

この場合、フレバーやブライト感の印象度を優先して、多少のアフターの違和感には妥協して目をつぶるすることが、良いカップとして印象度が上がります。

焙煎時間を若干短めにシフトさせることによって、アフターの違和感も強くなりますが、フレバーやブライト感の印象度を上げることができます。

アフターの違和感は、カップを繰り返しているうちに、不思議と違和感がなくなってくるからです。

手慣れたカッパ―やコーヒーのヘビーユーザーにこの傾向があるわけですから、多くの市販のコーヒーはこうした、フレバーやブライト感とアフターの違和感が織り交ぜられたものになります。

これを妥協せずに、フレバーやブライト感の印象度やアフターの完成度を高めたのが、低温焙煎にほかなりません。

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上記の焙煎を具体的に語る場合、その共通の客観的な尺度として、排気温度(内部温度)・豆の表面温度・を示し、通常投入からの時間系列で各数値を示すことになります。

これがもっとも、共通項目として客観的な尺度だからです。

だから強火というファジーな表現は失格で、具体的なガス圧計の数値を示さなければなりません。

しかし、残念ながらこれらの具体的な数値は、計器の取り付け位置やバーナーのカロリーが焙煎機によって、ばらばらであてになりません。

案の定、多くの方から、焙煎に関する質問にお答えしても、少しも良くならないというご意見が多く、なかにはかえって悪くなったという意見もあり、焙煎を数字で語ることの難しさをつくづく感じています。

先輩に厳しく指導を受けていた時代は、まだ排気温度計が一個、しかも機械式のアナログのおもちゃのような温度計が、投入口と本体の間にくっついているだけでした。

当時は温度と時間はあくまでも目安であって、それよりも、豆の表面の状態(豆ヅラ)を絶えず注視していたことを思い出します。

投入から何分何十秒くらいには、豆が蒸れ始め、何十秒後には表面が色づいてきて、その後何分の時点では豆がシュリンクして、、、、、、、

といったように焙煎の進行中にポイントを見つけて、その時点で豆ヅラがどう変化しているかを、確認しながら焙煎を進行させていました。

客観的な数値より、「豆ズラ」の変化を基準に焙煎を組み立てて行くことは、非常に重要なポイントだと、ここに至ってあらためて思います。

焙煎の経験を積んだローストマスターたちは、時間と温度だけではなく、豆の表情の変化をも合わせて、焙煎をコントロールしているからです。

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以上の反省を踏まえて、、、、これからも従来どうり

*時間

*豆の表面温度

*釜の内部温度=排気温度

の3点を中心に説明していきますが、

これに、各ポイントの*豆の表面の具体的な状態も加えて、
低温短時間焙煎のノウハウを構築していきたいと思います。

そして読者の皆様との共有をより深めていくために、豆の表面温度や排気温度を計測するための具体的なセンサーの設置位置を説明して、焙煎の進行に合わせて、豆の表面の状態も具体的な画像で示していきます。

より、リアルな“焙煎日記”をめざします。

また、読者の皆様の焙煎現場に直接伺って、焙煎のお悩みを解決しながら、低温短時間焙煎をひろめていきたい所存です。