低温短時間焙煎:その鳥瞰

前回は豆の表面温度の進行ペースを変化させ、そのカップの変化から、最適な豆の表面温度の進行ペースを模索する焙煎の方法論を展開しました。

そのとき焙煎を前半と後半に分け、それぞれの最適な豆の表面温度の進行ペースを模索するのは、前半と後半のそれぞれの段階には目的があって、それを検証したいがためです。

まず前半はきっちりと水が抜けているかどうか?そして後半はきっちりと成分が進化しているかどうか?を検証します。

そもそも、カップによる焙煎の良否の判断は、水が抜けているかどうか?成分進化はできているかどうか?の2項目で判断します。

それは目の前のカップを2項目から判断するのであって、焙煎がどうやってなされたか?は、本来は問題としません。

しかし、素材の良否をカップする本来のカッピングにおいて、有能なカッパーは、その素材の生育から収穫、精製に至るまでの工程のどこに欠陥があるかを、見抜いてしまうように、焙煎の良否のカッピングにおいても、その欠陥が前半にあるのか、後半にあるのか、あるいはその両方にあるのかを見抜きます。

それは、産地に幾度も赴き、その生育、収穫、精製の問題点を探りながら、カップを繰り返すことのよって、カッピングスキルが構築されたからで、焙煎も焙煎とカップを繰り返すことによって、スキルが構築されたからです。

このように、焙煎のカッピングの2項目は焙煎の核心を突くもので、このカッピングコンセプトから焙煎を前後の工程に分けて、前半を水抜き工程とし、後半を成分進化の工程とする焙煎の基本コンセプトが導き出されたわけです。

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さて、焙煎を前半と後半に分け、それぞれの段階でカッピングによって、適正な焙煎ペースを導き出す、焙煎の根本原理を明らかにしましたが、それはあたかも2つの林を別々にみているようなもので、いまひとつ釈然としません。

しかし、それは全体としての森の全貌を鳥瞰することによって、初めて理解が出来ます。

全体としての森がどのくらいの規模なのか?その森と2つの林の連関はどうなのか?を理解することによって、焙煎の全貌が明らかになるからです。

森は2つの林からなり、思った以上に全体がコンパクトにまとまっています

森の規模は焙煎のトータル時間を意味しますが、それが短時間であるということです。

焙煎とカップを繰り返していると、短時間になればなるほど(適正な投入量であれば)、フレバーやブライトが輝いてくるからです。

短時間内にコンパクトにまとめ上げるのが上手な焙煎で、具体的にはライトローストからフレンチローストまでの5段階を、およそ10分から14分を経過するのがベストと思います。

森の入り口は、最初の一つ目の林の入り口でもあり、そこをおよそ8分で通り抜けます。

焙煎の前半の水抜き工程は、投入からおよそ8分内に水抜きを終えるのがベストで、投入から6分前後で豆の表面温度が167度の至り、その後2分で豆の表面温度が175度前後に至ると、豆はシュリンクして、匂いの蒸気が飛んで、水抜けのサインを出します。

そして、ここから2番目の林の入り口に入ります。

ここの入り口で、一気に釜の内部温度を上げて、1分後(投入から9分)にクラックが始まり、2分後(投入から10分後)に豆の表面温度が192度前後に至れば、ライトローストができます。

2つ目の林は、連続した5つのブロックに分かれていて、最初のブロックがライトローストで、2番目のブロックがミディアム、3番目がシティ、4番目がフルシティ、5番目がフレンチとなります。

それぞれのブロックは1分で通り抜け、そのたびにおよそ豆の表面温度が5度づつ上昇すると、成分の進化が適正になされるようです。

投入から11分で197度(ミディアム)、12分で202度(シティ)、13分で207度(フルシティ)、14分で212度(フレンチ)といったぐあいでしょうか。

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上記のような焙煎時間と豆の表面温度を、各々各自の焙煎機でトレースするためには、まずもって窯の内部温度をコントロールしながら、正確にトレースしなければなりませんが、うまくトレースできても、それだけではカップがよくなる保証はありません。

それはまず第一に投入量と窯の余熱が、水抜けの良否に大きくかかわっているからです。

そして第二に、通常の焙煎機のカロリーでは後半の進行が、正確にトレースできないからです。

焙煎が複雑になる主因がここあります。

豆の表面温度による進行管理

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前回は、豆の表面温度を計測するセンサーの設置位置を特定しました。

より精緻な豆の表面温度を計測することは、焙煎を構築していくための必須の条件です。

そもそも、焙煎の構築は焙煎とカップの検証を繰り返しながら、より高いステージを模索していくことにほかなりません。

それは、豆の表面温度と時間をきっちりと管理して、豆の表面温度の進行=ペースが変化したときに、カップがどう変化したかを検証し、よりベストな豆の表面温度のペースを模索することです。

たとえば、前半の水抜き工程においては、投入から豆の表面温度が167度に至るまでのペースを変化させることによって、カップがどう変化するかを検証していくと、水抜けがベストのピンポイントの時間が特定できてきます。

167度という具体的な数字が突然出てきましたが、これは僕の思い付きから決めた温度で、165度でも170度でもかまいません。一度決めたら変更せずに、基準値としてこれを固定します。

この時点ではまだ水抜けも不完全で、窯の内部温度を一気に上げるタイミングではありません。あくまでも前半の最適なペースを模索するための基準値に過ぎないとご理解ください。

で、僕の焙煎機の場合、投入から5分30秒~6分00秒で167度に至るペースが、水抜けのベストぺースになります。

それより速いペースでは、カップはフレバーは強いのですが、滑らかさ(マウスフィール)に欠け、薄っぺらく=フラットで、若干の刺激的なアフターがボディと錯覚させます。

また、それより遅いペースでは、ブライト感が後退して、全体のトーンに翳りが出てきます。そのため、甘さや滑らかさも奥に引っ込んで、速いペースの時と違った意味でのアフターに媚びた嫌味があって、心地よくフィニッシュしません。

そして両者とも共通することは、ストラクチャリでないことです。(素材のカッピング項目のストラクチャは、素材そのものの持つ特性項目だけではなく、焙煎から左右される特性項目でもあると思います。)

以上のように、センサーが最適な設置位置であれば、正確な豆の表面温度を得ることが可能となり、微妙なカップの変化をとらえることが可能となります。

後半のドライディスティレーション(成分進化)の工程においても同じで、特定の豆の表面温度を固定して、そこに至るペースの変化から、最適な成分進化のペースを模索できます。

今までのわけのわからなかった焙煎が、原因と結果の因果関係がつかめてきて、その実態が少しずつ解明できてきます。