短時間焙煎への挑戦 Ⅰ

前回は、低温短時間焙煎の全体の流れを鳥瞰しました。

その中で、前半の水抜き工程において、投入量が重要なポイントであったわけですが、今回はその理由を焙煎の経験から考察してみます。

以前スペシャリティコーヒーロースターを目指す勉強会の仲間で、富士ローヤルの5K釜に5kの豆を投入している仲間がいました。

メーカーの公称キャパ、目いっぱいに投入していたわけですが、カッピングと焙煎を繰り返した結果、焙煎のトータルは21分前後になっていたと思います。

これはこれで、当時の5K釜5K投入のベスト焙煎であったと思います。

販売量が爆発的に伸びていった僕たちは、ダイレクト輸入が故に商社ファイナンスに頼れるわけがなく、原材料の生豆の確保に資金繰りがとられ、四苦八苦していました。

そんな状況であれば、販売増に見合った焙煎機の新規購入は無理であり、当面は今の釜で頑張ろう!となるわけです。

ほとんどメンバーは、そんな状況にあって、投入量はできるだけ多く投入して、ランニングコストを抑えることに必死であったわけです。

そういうことから、「もしかしたら投入量を全面的に見直ししなければ、焙煎の核心には迫れないのでは?」と直感していても、投入量は聖域であり、減らすことなどはタブーであったわけです。

また、僕を含めて販売量がまだ少なかった仲間で、5k釜を所有する仲間では、ほぼ3k投入で焙煎のトータルは15~16分前後でした。

カッピングスキルが向上して、焙煎とカッピングを繰り返し、なおかつ勉強会で仲間の豆をカッピングをしながら、お互いの焙煎の工程を整合してきた結果ですから、5k釜で3k投入で15~16分焙煎もベストであったと思います。

(当時は深煎りが主流で、シティからフルシティの焙煎度でした。)

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5K釜での、5K投入の焙煎時間21分前後と、3K投入の焙煎時間15~16分前後の違いを、今ここで分析したいのですが、何しろ10数年前のことで、おおざっぱなデータしかなく、単純な比較はできません。 

しかし、データーを整理していると、驚くべき結果が出てきました。

それは、ファーストクラック以降の両方の後半が、ほぼ一致しているということでした。

ということは、投入からファーストクラックの差が、そのまま焙煎時間の差になっているということです。

当時は、恩師からー焙煎工程を前後に分けるという新しい焙煎ノウハウー提示された時期と、欧米ロースターの短時間焙煎が伝播してきた時期と重なっていますが、ほぼ全員がまだ従来の自前の焙煎で、カッピングと焙煎を必死に繰り返していた時期でした。

ですから、ここには“水抜き工程”とか“成分進化の工程”というはっきりとした工程意識はないわけですが、便宜的にファーストクラックまでを前半の工程として、それ以降からラストまでを成分進化の工程とすれば、まめの投入量の変化で、水抜けの時間が変化すると捉えてよさそうです。

多く投入すれば、長くかかり、少なければ短くてすむわけです。

これは焙煎とカップを繰り返して、検証してきた結果ですから、妥当な結果だと思います。

もちろん、後半の成分進化の工程が両方とも適正な進行であったことが、大前提にあることはお解かりいただけると思います。

さて、本題はここからです。

当時は上述したように、米国のスペシャルティコーヒーロースターの短時間焙煎が伝播しだした頃で、短時間焙煎へのチャレンジの時期でもありました。

僕の場合、ACEのポール・V・ソンガーさんの焙煎セミナーにヒントを得て、13分の焙煎を目指して、投入量の減量と釜の余熱の関係に没頭していました。

僕はメンバーの中では劣等生で、比較的に注文に追われる環境ではなかったため、投入量を減量(=バッチ数を増加)させても、余裕がありました。

その過程から得た結論は、5K釜では2K以下投入であれば、短時間焙煎が可能になるということを得ていました。

十分な釜の余熱を利用して、2K投入すれば、(適正な火力であれば)およそ1分半でボトムに達して反転します。その後9分でファーストクラックが始まり、13分でフルシティローストの完成です。

3K投入であれば、12分でファーストクラックが始まり、16分でフルシティローストの完成、5K投入であれば、17分でファーストクラックが始まり、21分でフルシティローストの完成でした。

焙煎とカッピングを繰り返して出てき結果からは、投入量を少なくすれば、短時間で水が抜けて短時間焙煎が可能であるということです。

3K投入で、釜の余熱を上げたり、ガス圧を上げたりして9分のファーストクラックを目指しても、上手くいきません。

それらはすべて、過激なカップになり、なんとなく直感として釜の限界を感じます。

強引に余熱や火力で調整しても、素直に豆が反応してくれない事態に直面するからです。
だからこそ、カップを繰り返すことによって、少し時間を長くして、12分前後にクラックが来る頃に落ち着くのです。

ここに釜の容量と投入量で、水がスムースに抜けていく関係があることが分かり、投入量を減量していけば、短時間焙煎が可能となるわけです。

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5K釜で5K投入と3K投入、そして2K投入のカップの違いは、それぞれが別個にカップの判断から妥当な範囲として“良し”としたのであったのですが、全体を2K投入のものから比較すると、マウスフィールやアフターにおいて圧倒的な差が出てきます。

特に水抜けに長く時間のかかったものは、ざらついたマウスフィールが目立ちます。

味覚の表現に“雑味”というものがありますが、まさにこれで、最初のインパクトでこれが出てきますが、他にフレバーや甘さのインパクトがよければかき消されてしまう要素でもあります。

特に、冷めてくると良い素材ほど、フレバーの特徴や甘さ、クリーンが際立ってきて、焙煎による“雑味”は後退してきます。良いオイル分が欠点をカバーしてくれる結果、カップは向上してくるわけです。

最初の嫌なインパクトがあっても、最終的には“美味しい”というカップが成立してしまいます。
 
焙煎の欠点をまさに素材がカバーしてしまうわけです。

そして、この現象は、多くの日本のスペシャルティコーヒーロースターに顕著に表れています。

そのほとんどは、大量投入によるカップの欠点(=焙煎の欠点)を認知することが出来なくても、一生懸命にスペシャルティコーヒーを拡販紹介するロースターです。

しかし、大量投入による焙煎の欠点を認知していて、しかも素材の良さがそれをカバーすることも認知している主流のスペシャルティロースターもいます。

いわゆる確信犯で、スペシャルティコーヒーとしての品質維持と、注文をさばかなければならない現状とを、上手く妥協していることが、カップからうかがえます。

ともあれ、焙煎を短時間化することによって、カップは向上します。

そしてその短時間化は、釜の容量から投入量が決定され、投入から9分でファーストクラックを迎えるのが、短時間焙煎のベストと思います。