前回は基本的と思われる高温短時間焙煎のプロファイルを示してみました。
セカンドウエーブの旗手たるスタバやピーツが日本に進出して、アメリカのスペシャルティコーヒーが伝播しだすと、やがて焙煎ノウハウも伝播しだしてきました。
彼らとの交流が盛んになって、こうした焙煎ノウハウも漏れ始め、一定期間を過ぎるとワーッと拡散しだします。
最初はいろいろな根も葉もないノウハウもあったりしますが、彼らとの交流から20年くらい経過した今は、それらが取捨選択されて、まっとうな短時間焙煎が、良識的なロースターの間では共有されていると思います。
前回、開示した焙煎プロファイルは、10年ほど前の僕のプロファイルですが、最近、ことあるごとにスペシャルティコーヒーロースターの方々に焙煎のプロファイルをお聞きするたびに、お互いの焙煎プロファイルがほぼ一致していて、驚いています。
これはもはや、焙煎そのものの基本的プロファイルといってもいいと思います。
セカンドウェーブの旗手たちが、コーヒーの基本に立ち返って、欧州の老舗に師を求めたとき、まずもって焙煎ノウハウも師匠の欧州から学び取ったことは、彼らの深いローストから理解できます。
この欧州から学んだ焙煎プロファイルは、現在のアメリカや欧州、そして僕たち日本のサードウエーブを標榜するロースターたちが結果として共有する焙煎プロファイルになっているわけです。
伝播してきたこの基本的プロファイルが、以前の僕たちの長い時間の焙煎に対して短いため、“短時間”焙煎と呼称しているのでありますが、最初からこの基本プロファイルから入門している、現在の若い人たちにとっては、短時間という呼称の意味が解らないのは無理もありません。
それくらい技術ノウハウの伝播と浸透の早さには、あらためて驚きます。
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上述のように、現在のサードウェーブの主要な担い手はこのセカンドウェーブの基本的焙煎プロファイルをそのまま受け継いでいるにすぎません。
トレーサビリティに始まる豆の詳細な情報開示や、オーダーごとのバーチャルな抽出といった“サードウェーブ”の流儀は華やかに開花しましたが、焙煎ノウハウは全く変わっていないということです。
だからこそ“基本的焙煎プロファイル”と表現することができるのですが、恩師の提案された“低温焙煎”ノウハウはどに行ってしまったのでしょうか?
そもそも、低温倍煎は高温短時間焙煎の欠点である、アフターやマウスフィールの“歪さ・違和感”を解消して、まっとうなアフターやマウスフィールを再現することを標榜としてきました。
豆の持つ風味特性を強調するためには、強い火力と高い投入温度で焙煎すれば、その目的はある程度達成されます。
ただ、このような短時間焙煎の最大の欠点は、アフターやマウスフィールの領域において、アストリンジェントやビターといった雑味がどうしても出てしまい、トータルとしてのカップが悪くなってしまうことです。
風味特性を強調すればするほど、アフターやマウスフィールは歪になり、そのアフターやマウスフィールを改善しようとすると、今度は風味特性がなおざりになるといったジレンマがいつも付きまといます。
現実には、各ロースターが両者の落としどころのポイントを見つけて、妥協しているにすぎません。
風味特性を損なうことなく、マウスフィールやアフターを向上させるーーーこの矛盾する課題からノウハウが構築されたのが”低温焙煎”のメソドであるわけです。
その歴史的経緯は後の考察に譲りますが、まずもってその基本的な着想は、焙煎工程を水抜きの工程と成分進化の工程に分け、焙煎の前半を水抜き工程とし、焙煎の後半を成分進化の工程と明確に分けることにあります。
高温の短時間焙煎は、明確に焙煎工程を分けるというコンセプではなく、単に風味特性を引き出すことを主眼としているため、結果として水を抜きながら、成分進化を同時に進行させています。
このため、豆の内部に水を残したまま焙煎が進行して、それがいつまでも芯に残って、アフターやマウスフィールを阻害するのです。
強引な焙煎により、豆の表層から水が抜け、水が抜けた表層から成分進化が始まり、徐々に豆の内側にその過程が移っていきますが、いつまでたっても芯の部分の水は残ったままという状況をご理解いただけると思います。
結局、高温短時間焙煎は芯に残る水分量がより少なくなればベターであって、そのベストな状況が前回示した基本的な焙煎プロファイルに落ち着くわけです。
次回は具体的に、高温短時間焙煎(基本的焙煎プロファイル)と低温短時間焙煎のプロファイルを比較検討していきます。