高温短時間焙煎と低温短時間焙煎 Ⅲ

前回は、通常の(高温)短時間焙煎と低温短時間焙煎をグラフで示し、前半の工程(水抜き工程)を比較検討しました。

このグラフによって、通常の短時間焙煎の欠点、すなわち風味特性を強調すればするほど、アフターやマウスフィールがいびつになるという欠点を、低温短時間焙煎がどのようにして改善しているか?を、大まかに理解していただけたかと思います。

その要点は、

●水抜けが完了するまで、釜の内部温度を上昇させずに一定の温度(180℃以下)を保つ。

●そして、あくまでも短時間焙煎を維持する(焙煎の大原則)ために、7分で豆の表面温度が167度に至るよう進行管理をする。          

でした。

この矛盾する要点(低温と短時間)を上手くまとめ上げるには、投入時点における十分な釜の余熱の確保と、投入量のバランス(思い切った減量)がポイントでした。

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Photo

今回からは後半の工程、すなわち成分進化の工程を比較検討しますが、上記の特徴から低温焙煎の欠点がもろにこの工程で表れてきます。

焙煎後半の8~10分ころにおいて、通常の短時間焙煎に比べ、釜の内部温度や豆の表面温度が相対的に低くて、成分の進化が十分になされないからです。

具体的には通常の短時間焙煎では、8~9分で釜の内部温度は200℃以上に至っていますが、低温短時間焙煎では依然として180℃以下に保たれています。

全体としての水抜けを最優先するために、低温短時間焙煎は水抜けを確認するまでは、釜の内部温度を引き上げることができませんので、結果としてどうしても後手に回ってしまうことになるわけです。

(成分進化を優先させて、水抜けが確認できなくても、釜の内部温度を早く引き上げていけば、それなりの成分進化の結果が出てきますが、やはりアフターやマウスフィールの領域で欠点が出てきます。通常の短時間焙煎と変わらなくなってしまうわけです。)

どの時点で釜の内部温度が何度に至っていれば、そしてどのくらいの時間を経過すれば、成分の進化は適正に進化するか?という焙煎後半の核心はやはりカッピングによって突き詰めていくしかありません。

ひょっとすると、低温短時間焙煎では遅すぎて(温度が低すぎて)、成分進化は結局無理かも知れないといった不安は、過去いつもつきまといました。

しかし、水抜けを確認してから、できるだけ早く釜の内部温度を引き上げることができれば、低温短時間焙煎の場合でも、適正な成分進化は可能であることが確認できてきます。

グラフから分かりますように、水が抜けて一気に火力を上げて、ほぼ1分以内に180℃以下から230℃にまでに、釜の内部温度を上昇させれば、後手に回った成分進化をとり戻すことが出来ます。

両焙煎とも投入から7分の時点で、豆の表面温度が167度で経過しますが、その後は、低温焙煎が釜の内部温度を上げずに一定にするため、じわりじわりと温度差が開いていきます。

そして8分40秒前後で、低温焙煎が水抜けを確認して、釜の内部温度をひきあげる時点では、豆の表面温度差は10度以上開いています。

この時点から、一気に釜の内部温度を引き上げて、1分以内の9分40秒前後までに釜の内部温度が230度に至れば、後手にまわった成分進化はとりもどすことが出来る、、、という結果をカップから得られます。

グラフを見て頂ければ、釜の内部温度の急激な引き上げに伴って、豆の表面温度も上昇ペースを速めていくのがお解りいただけると思います。

投入から10分経過の時点では、両焙煎の豆の表面温度差は約6℃までに縮小して、11分の時点では、ほぼ差はなくなります。

(以前にご紹介しましたAGFの匠焙煎における2段目の上昇カーブがこれに当たります。)

この11分の時点が浅煎りのポイントで、豆の表面温度が192℃前後に至ります。

このことから、焙煎時間の経過と豆の表面温度が成分進化に直接関与していると思われます。

そして、それを左右するのは、釜の内部温度であるわけです。

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このわずかな1分内の出来事で、焙煎後半の成分進化の良否のピンポイントが隠されています。

そのピンポイントは

*水抜けの判断が遅れて、釜の内部温度の引き上げが後手にまわった場合や、水抜けの判断が速すぎて、釜の内部温度の引き上げが速すぎた場合にどうカップは変化するか?

*できるだけ早く釜の内部温度を上げるには、釜の内部温度が1分以内に230℃に上昇に上昇すればよいが、それ以上の、例えば240℃であったらカップはどう変化するか?

*今回はスマトラであったわけで、豆の種類によって、230℃の引き上げが、豆の表面温度の進行がどう変化するか?そしてカップはどうか?

といった意図的な操作の繰り返しと、カッピングの繰り返しの検証から特定できてきます。

このところを今後詳しく検証していきます。

高温短時間焙煎と低温短時間焙煎 Ⅱ

 通常の(高温)短時間焙煎と低温短時間焙煎のプロファイルを以下のエクセルに進行表とグラフで示しています。プリントアウトして本文と一緒に見ていただければ幸いです。(オフィスソフトによっては、グラフが正常に表示されないことがあります。)

「indonesia2_.xlsx」をダウンロード

2_3
共に インドネシア・スマトラ・アチェの焙煎プロファイルです。

青のラインが短時間焙煎で、緑のラインが低温短時間焙煎を示しています。

実線がそれぞれの豆の表面温度、点線がそれぞれの釜の内部温度を示しています。

両者とも7分前後で、豆の表面温度が167℃前後に至るように表示されていますが、意図したわけではなく、それぞれ別個に焙煎の進行とカップの検証を繰り返した結果、偶然にも両者のベストカップは同じ展開になっていました。

このため、比較検討することが非常に分かりやすくなっています。

14分で207.5度の釜出しは、およそフルシティの焙煎度で、13分でハイ~シティ、12分でミディアム、11分でライトローストとして、釜出ししています。

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まずもって目につくのは、低温短時間焙煎の前半における、排気温度(内部温度)が高温短時間焙煎に比べ、低めでかつ上昇せずに一定であることです。

豆を投入すると、1分30秒前後で豆の表面温度がボトムに至り、やがて上昇していき、白く蒸れはじめ、その後色づき始めてくる段階に至ります。(入荷したてのニュークロップでは蒸れの段階がないのが大半です。)

この段階で、釜の内部温度を上昇させずに、一定の温度(この場合は177℃)を維持することによって、表面からのローストの進行を極力抑え、全体の水分をぬいていきます。

ボトムから勢いよく上昇してきた豆の表面温度は、釜の内部温度を上げないため、徐々にそのペースを落としながら、釜の内部温度に近づいてきます。(4分~8分)

およそ7分前後で豆の表面温度が167℃に至りますが、そのまま水抜きを続けていますと、8分30秒から9分の間で水抜け完了のサインが出てきます。

ボトムから水抜けまでの豆の表面温度のラインが、緩やかなカーブを描いていますが、このカーブが芯からの水抜きを可能にしていると思います。(以前に指摘したAGFの匠焙煎のカーブも同じです。)

そのサインを見落とさずに、素早く火力を上げ、一気に釜の内部温度を上昇させます。

それに反して、通常の短時間焙煎は、たえず釜の内部温度を上昇させて、豆の表面温度を引き上げていきます。(3分~9分)

これは、火力能力の高い焙煎機で、ニュークロップの適量(少量)を焙煎する場合のパターンで、スペシャルティコーヒーロースターの大半が行っている、短時間焙煎です。

プロバットがドラム式の焙煎機を開発してから今日に至るまで、古今東西の真っ当なロースターたちが行きついた定番中の定番焙煎と思います。

まずもって、焙煎の適正時間が最初にあって、焙煎機の能力と容量から、投入量が決定されます。

しかし、スペシャルティコーヒーの大原則であるニュークロップの場合、投入してからの展開が思いのほか早く、あっという間に進行してしまう経験則から、投入温度や火力を低めに設定してしなければなりません。
そうすることによって、トータルの焙煎時間が定番の焙煎時間と一致することになるわけです。
(この過程を水抜きをする工程と呼称して、そのために投入温度や火力の出力を抑えるという考え方をされるロースターの方が多いのですが、これは本末転倒で、ニュークロップの焙煎を定番焙煎の時間枠にはめ込むための手段にすぎません。

工程を明確に分けるのなら、何らかの水抜けの確認作業があって、そののち成分進化の過程に移行する所作があってしかるべきです。)

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以上の説明で、両者の焙煎コンセプトが理解していただけると思います。

 
低温短時間焙煎は、従来の(高温)短時間焙煎が釜の内部温度を無造作に引き上げることによって、表面から焙煎が進行して、その結果として豆の芯に水を残してしまうために、アフターやマウスフィールが阻害されると考えます。

あるいは、投入量が適量であって、水抜けがドンピシャリであっても、強い火力で豆の表面が歪み、アフターやマウスフィールが阻害されるとも考えます。

原因がはっきりと特定できているわけではありませんが、おそらくグラフでいうと、4分から9分の釜の内部温度上昇の差が影響していると思われます。

次回は後半の成分進化の段階における、両者の違いを説明していきたいと思います。

読者からのメール Ⅰ

前回のエクセルによる焙煎プロファイルは多くの方の“反響”をいただきました。

といっても、お叱りのメールが多く、とても反省している次第です。

同じ思いをされている方は、もっと多くおられると思いますので、
以下、メールの一部とそれに対する僕の返信をご紹介して、ご理解をいただきたく思います。

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Date: 2016/10/20, Thu 01:25
Subject:  低温短時間焙煎プロファイルを拝見して
 
以前メールで焙煎についてアドバイスを頂きました〇〇と申します。
ブログの更新を楽しみにいつも勉強させて頂いています。

本日は低温短時間焙煎のプロファイルを拝見して疑問に思うことがありメールしました、お

答え頂ければ幸いです。

まず私の思う低温短時間の要点は(山本 様の釜による)

・予熱後豆を投入、釜の内部温度はボトムの175度以上180度未満に固定

・豆の表面温度は5分30秒〜6分00秒に167度を通過

・8分〜8分30秒(豆の表面温度は174度〜175度)水が抜けたらガス圧を全開

・ガス圧を全開後、内部温度は240度前後まで引き上げすぐに引き下げながら調整
ガス圧を全開にした1分後にファーストクラック、さらに1分後豆の表面温度は192度前後

・その後豆の表面温度は1分間に5度上昇、目的のローストでおとす

この様に理解していたのですが拝見した低温短時間焙煎のプロファイルでは5分30秒〜6分00秒の豆の表面温度など上記との違いがあるのはどうしてなのでしょう
また私の低温短時間焙煎に対する認識に間違いがあればアドバイスをよろしくお願いいたします

美味しく焙煎したいです‼︎

Subject:  Re: 低温短時間焙煎プロファイルを拝見して

 
 
〇〇様

メールありがとうございます。
ご指摘のとおり、データーが矛盾しています。
これはひとえに,僕が逐一ブログを更新していないことが原因で、反省しています。
お許しください。
状況は以下のとおりです。
今年の夏季から現在(10月)に至るまで天候が不順で、焙煎に大いに悩みました。
 
クリーンカップができにくく、この原因は何なのか?と思案していましたが、原因は水抜けが悪くなっていると思い、前半の水抜き工程を延長しました。

30秒そして、1分延長して、投入から7分00秒で豆の表面温度が167℃に至るようにしました。

その結果として、クリーンカップが改善されたため、現在に至っています。

その結果として、ガス圧の引き上げは1分伸びて、9分、、、、というわけではなく、8分45秒前後で引き上げています。
どうしてか?といえば、その時点で水が抜けているからです。

1分延長しても、その分水抜きが奥に行くのではなく、速めに抜けていく傾向がありるようです。

早ければ、そのぶん早く釜の温度を引き上げることができますから、速く釜の内部温度も立ち上がり、成分進化もよくなってきます。

水抜けが改善され、かつ成分進化も改善されるという結果になります。

このあたりの微妙な関係に低温短時間焙煎のポイントがあるようです。

また、その時の豆の表面温度は174℃~175℃ではなく、もっと低くなります。

水抜きが、長くなればなるほど、表面温度や釜の内部温度は低くなり、成分進化がむつかしくなってきます。

そして、240℃ではなく230℃、、、、あまりに多くのカップの結果が、今回出ています。
次回またこのへんをメールします。
宜しくお願いいたします。
  

                   サードウェーブコーヒー:山本敦則

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Date:
2016/10/21, Fri 16:33
Subject:焙煎プロファイルについて

はじめまして、〇〇と申します。
数ヶ月前ほどからになりますが、ブログ「焙煎日記」を大変興味深く拝見させて頂き焙煎の参考にさせて頂いております。

ーーー中略ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

さて、焙煎につきましては、色々うかがわせて頂ければと思っておりますが、自分の中でまだ整理できていませんので、今特に気になっている点をお聞きできればと思います。

・中点からの温度上昇の傾きが急の場合表面だけ焙煎が進んでしまう事が考えられ、そのため 急にならないようにするため投入温度を上げると思いますが、中点はある温度以下にならなければいけないなどの制約は低温短時間焙煎の場合あるのでしょうか?

・低温短時間焙煎:その鳥瞰では、豆の表面温度167℃に達するのは6分前後とあり、
スマトラ・アチェの焙煎プロファイルでは7分を超えていますが、実際の焙煎では7分を目処に行っていますか?

質問のご返信はお時間があり、可能であればで結構です。

ブログとても参考になっております。今後も楽しみにしています。


Subject:
Re:焙煎プロファイルについて

〇〇様

メールありがとうございます。

以下お答えいたします。

・中点からの温度上昇の傾きが急の場合表面だけ焙煎が進んでしまう事が考えられ、そのため急にならないようにするため投入温度を上げると思いますが、中点はある温度以下にならなければいけない、などの制約は低温短時間焙煎の場合あるのでしょうか?

過去、恩師がこの焙煎コンセプトをサンプルロースターで提案されましたが、衝撃的な焙煎でした。

一定のごく細い炎でず~~っと水を抜き、(その間とても長かった印象があります)頃合いを見て、サンプルバーで水抜けを確認して、いきなりガス圧を全開にして、焙煎したことを思い出します。

このことを低温焙煎の原点とすれば、中点の温度制限はない、と思います。

しかし、本焙煎の経験を重ねてくると、ある程度の時間内に焙煎を納めないと、上手く煎れないことが分かってきます。

この焙煎のトータル時間の制約から、おのずと下限はあると思います。

そして、やみくもに長く水ぬきをしても(低い温度で水抜きと同義語になります。)、水が抜けていざ釜の内部温度を上げようにも、その時の釜温度や表面温度が低すぎて、十分な成分進化を達成できないといった危険があります。

これは低温焙煎の最大の欠点で、とても飲みやすいが、風味特性がショボくて、何ら感動もないコーヒーになってしまいます。

また、中点というより、投入からおよそ3分以降の釜の内部温 度(水が抜けるまで上げない温度帯)の上限は、カップからあると思います。

少なくとも182~185℃で維持した場合、アフターやマウスフィールが悪くなってきますから、これ以下の温度帯を維持し、かつ目的の時間内に水抜き工程を納めることが必要と思います。

・低温短時間焙煎:その鳥瞰では、豆の表面温度167℃に達するのは6分前後とあり、スマトラ・アチェの焙煎プロファイルでは7分を超えていますが、実際の焙煎では7分を目処に行っていますか?

他の方からのお叱りのメールも届いています。この経緯は次回のブログにアップします。

以上宜しくお願いいたします。

                      サードウェーブコーヒー:山本敦則

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 日々の結果を、逐次ブログで報告するのがベストですが、諸般の事情からとても無理ですので、上記のような状況が出てきてしまいます、、、、ご理解をください。

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