ニュークロップ対応の焙煎プロファイル

前回までは通常の短時間焙煎と低温短時間焙煎の比較検討をしてきました。

今回は、スペシャルティコーヒーロースターとして頑張っている、友人の短時間焙煎の焙煎プロファイルをご紹介いたします。

焙煎機はプロバットの旧L22型で、少量焙煎を実行しています。

コスタリカとグアテマラの焙煎プロファイルを提供してくださいました。

「l21_graph.xlsx」をダウンロード

Photo_2

ご存知のように、スペシャルティコーヒーロースターを目指す場合は、ニュークロップの焙煎対応が必須となります。

ニュークロップといっても、バリバリの入荷したての生豆から、収穫から約1年を経過して、次の入荷待ちまでの生豆と、さまざまな生豆が在庫に混在しています。

それらの生豆の状況を掌握して、焙煎ペースがぶれないようにコントロールしなければいけません。

特に入荷したてのニュークロップは要注意です。

不用意に投入しようものなら、あっという間に焙煎が進行して、気がついたときには修正が不可能な状況になってしまった、という経験をされた方も多いと思います。

含水量が多いのだから、その分時間がかかるとイメージしがちですが、実際はその逆でモイスチャ「水分」の熱伝導が良いことと、硬くしまった肉質が蒸れにくいため、進行は早くなるようです。

進行が早くなってしまったときのカップは、アフターやマウスフィールが刺激的となり、レスクリーンになります。

また、含水量が多いのなら、焙煎時間を長めにすればよいのでは?と思いますが、従来より時間をかけたときのカップは、明るさが薄れ、暗いトーンになりがちです。アフターに雑味が残り、マウスフィールが悪化します。

以上のカップの結果から、ニュークロップであっても、細心の注意を払って、従来の進行ペースをトレースしなければなりません。

そのためには、投入時の釜の内部温度(排気温度)と、豆の表面温度(空だきのセンサー温度)を従来より低くして投入することで、豆の表面温度のボトムを従来よりやや低い温度にもっていきます。

どのくらいの下げ幅にするかは、試行錯誤するしかありません。有能なローストマスターは経験知から、その数値を的確に導き出せます。

また、このニュークロップが数か月経過し、特に夏季の高温多湿での劣化が重なると、いつものようにボトムがうまく取れても、進行が後手にまわって、正確に従来のペースをトレースできない事例が出てきます。

この場合の原因は、ボトムから反転上昇するころから豆が蒸れはじめ、蒸気の放出によって豆の表面温度の上昇が鈍くなるからです。

特に低地産が多いブラジルはこの事例が顕著で、夏季に麻袋の1/3程度に残ったブラジルは注意が必要です。

この場合は、ボトムを若干高くして、釜の内部温度を従来より不必要に上げずに、従来のペースをトレースできるようにします。
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友人の店には、世界中の産地からトップオブトップやスペシャルティ、そしてCOEのロットが常時入荷していてます。

彼の多くの焙煎プロファイルからもその状況が読み取れてきます。

細心の注意をはらって、投入時の豆の表面温度のセンサー温度と、排気温度を設定しています。

ただ、今回公開して頂いたコスタリカとグアテマラの投入温度の差は、クロップの差や豆質の差だけではなく、投入量の違いから大きな差があります。

おそらく、コスタリカが5Kでグアテマラが10Kと思われます。投入量の少いないコスタリカのほうが低い温度で投入をしています。

そうすることによって、豆の表面温度のボトムを同じラインにきれいに乗せています。

(参考に、以前の富士ローヤルの5Kg釜のスマトラの短時間焙煎と比較したグラフを個々に表示します。)

Photo

Photoおよそ11分ころにはコスタリカもグアテマラも、スマトラと同じ豆の表面温度になっています。

そして、これ以降はスマトラと同じラインをトレースしていけば、中煎り~深煎りのペースになります。

11分以前ですと、同じ表面温度では1分~1分半ほど、長くかかっていますが、これはおそらく、フルフレバーローストの浅煎りが180度台後半のため、少し長く時間を取って、成分の進化を十分にしたと思われます。

何度も焙煎とカッピングを繰り返して、このラインが導き出されているわけです。

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さて、ここで焙煎をある程度経験された方なら、投入から9分までのスマトラとグアテマラ・コスタリカの釜の内部温度(排気温度)の差が気になると思います。

コスタリカ・グアテマラ・スマトラとも豆の表面温度の進行がさほど差がなくても(途中で少し差が出てきますが、11分ごろには差がなくなってきます。)、なぜプロバットのほうが低い内部温度であるか?という疑問です。

スマトラは富士ローヤルの5Kg釜に2Kgを投入しています。

それに対して、グアテマラ・コスタリカはプロバットの22Kg釜にそれぞれ10Kg・5Kgを投入しています。

メーカーの釜の公称容量はシリンダー容量から算出されていると思いますが、とりあえず、公称容量に対する豆の投入率から、スマトラ(投入率40%)とそれに近いほうのグアテマラ(投入率45.4%)を比較してみます。

驚くべきことは、両者の投入温度(豆の表面温度センサーと排気温度)がほぼ同じで、かつ両者の豆の表面温度のボトムが同じでも、排気温度のボトムがプロバットのほうが断然低いことです。(また、プロバットのほうが投入率が高いので、なおさらのことです。)

これは、釜の保温力の差が原因であると思われます。

実際にプロバットL22と富士ローヤルの5Kを見比べただけで、保温力の差は歴然ですし、釜本体やシリンダーの材質(鋳物)の違いもあるのでしょう。

ドラム式の焙煎機で、鋳物製のプロバットがいまだに人気があるのは、この排気温度が低くても、豆の表面温度はしっかりと進行してくれる構造にあると思います。

また、シリンダーとガスバーナーの外側に鉄板で囲い込むようにフードが設置されていて、外気がバーナーの炎を通過しなければ、シリンダー内に取り込まれないように工夫されています。

また、シリンダーの鉄板からの輻射熱を避けるために、シリンダー外側にもう一枚鉄板がまかれていて、2重の構造になっています。

これらのことも、低い温度でも安定して、焙煎を進行させることが出来る構造になっています。

このプロバットの特性は、まさに低温短時間焙煎に最適な焙煎機であると思いますが、成分進化の段階でどのくらい釜の温度が上昇してくれるかが未知数です。

投入量を減量するか、あるいはバーナーを増設をするかで、低温短時間焙煎を試みれば劇的に品質は向上すると推測できます。

実際にチャレンジされた方のご報告をお待ちしています。