読者からのメール Ⅱ

前回からは、焙煎後半の成分進化・デベロップメントの段階に入りましたが、またまた、脱線します。

以前から、“ダンパー操作”のご質問が多くあります。

なんかいいタイミングがあったら、ブログで総括したいと思っていましたが、低温焙煎においては、デベロップメントの段階でとても重要な操作になりますので取り上げました。

おそらく多くの方が気づかない盲点だと思います。

ダンパー操作自体は複雑に考えすぎると、焙煎そのものをシンプルに捉えられなくなり、焙煎の迷路にはまり込んでしまいますので、要注意です。

焙煎をシンプルに捉えるためには、とりあえずダンパーは全開に固定して、豆の表面温度の進行ペースを、釜の内部温度とともに管理していくことがベストと思います。

おおむね、業務用の焙煎機は排気能力と火力のバランスはある程度考慮されているからです。

この作業を積み重ねて行くと、ダンパーと火力の相関関係が見えてきます。

 
—– Original Message —–
To: hdfsw452@ybb.ne.jp               
Date: 2017/3/1, Wed 15:57
Subject: ご質問です。
            
山本様

はじめまして○○と申します。
いつもブログを拝見させていただいております。
わたくしはフジローヤル改103(直火)で焙煎しております。

特に山本様の「低温短時間焙煎」は大変興味深く、いつも楽しみに読ませていただいています。

今回ふと気になったことがありましたのでメールさせて戴きました。

焙煎機はフジローヤル105だと思いますが、焙煎中のダンパー操作について一切書かれておりませんので気になりました。

巷では排気はニュートラルを追いかけ開いていく派。
しかもニュートラルはホッパー口で調べる派、スプーン口で調べる派

水抜きは負圧で、ロースト時は正圧、ハゼたら負圧といった方法

水抜き時はダンパーを閉めて内圧をかける方法

ダ ンパーは触らず一定派、、、、、等

ダンパーに関しては色々な考えの方がいます。

ダンパーに関して山本様のお考えを聞かせていただければ幸いです。

ブログ「焙煎日記」更新楽しみにしております。

 
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○○さん

メールありがとうございます。
ダンパーのご質問ですが、同じような質問が何件か来ています。

ダンパーを考えすぎると複雑になりすぎて、焙煎をシンプルに捉えなくなります。

焙煎は豆の表面温度の進行をきっちりと管理する、というごくシンプルな作業と捉えてください。

豆の表面温度の進行をコントロールするためには、釜の内部温度を管理する必要があります。

そして、この内部温度の管理は火力とともにダンパー操作からも影響をうけます。

火力の強弱とダンパー位置で内部温度は変化するからです。

最初の水抜き工程は負圧のほうが水が 抜けてくれると思います。

熱風式の優位はこの工程にあるわけですから、その理屈はお分かりいただけると思います。

抜く力が強ければ、それに応じて火力を調節して、釜の内部温度を管理して、豆の表面温度の進行ペースをコントロールしていきます。

負荷の強弱に対して、火力の強弱で釜の内部温度を管理するということが、ドラム式の焙煎の真骨頂だということがお解りいただけると思います。

そして、水が抜けたら、デベロップメントを完成させるため、釜の内部温度を上げていかなければなりません。

一定時間内に、釜の内部温度を素早く上げるためには、通常の業務用の焙煎機では火力が不足するため、バーナーの増設をしてそれに対応しました。

この時、負圧が大きければ、それに比例する、より強力な火力の補強が必要なことはお分かりいただけると思います。

しかし、実は火力がある一定の限界を超えると“表面焼け”のカップが出てきます。これはひどいカップになります。アフターが悪化して、フレバーも引っ込んでしまいます。表面焼けによるマスキングです。

これを防ぐための方策は、表面焼けを招く前のぎりぎりの火力を把握して、後はダンパーを負圧から閉じていき、釜の内部温度を上げるしかありません。

一番効率よく上げるダンパー位置では、ニュートラルか圧力が若干かかっているかはよく分かりませんが、全開の時より驚くほど内部温度が上昇してくれます。

純」熱風式の焙煎機であれば、多くの場合、マスキングが起こってしまう可能性があります。

ここにダンパー操作の真骨頂があり、低温焙煎においてはドラム式のほうが断然優れていることがお解りいただけると思います。

その後、釜の内部温度が十分に上がったら、、、ということはファーストクラックを迎えるころになり、排煙の問題から、ダンパーを開放(負圧)しなけばなりません。

 
                          サードウェーブコーヒー   山本敦則

デベロップメント(成分進化)の実相

1月中はホームページ公開の最終作業が忙しく、ブログが更新できなかったことをお詫び申し上げます。

また、HP制作会社との連絡で、このブログを活用したことも重ねてお詫び申し上げます。

公開したものの、アメリカを中心としたスペシャルティコーヒーの遍歴や低温焙煎メソッド、美味しい珈琲の淹れ方などはまだ途中で完成していません。

低温焙煎メソッドのコーナーでは、希望する方の低温短時間焙煎導入のお手伝いをして、焙煎機の構造から、バーナーの増設、そして低温短時間焙煎をトライした結果として、導入後と導入前のカップの変化を比較した詳細なレポートを報告したいと思っています。

ご希望の方はメールで申し込みください。

また、抽出のコーナーもドリップやプレスだけではなく、他の抽出器具も紹介したいと思っています。特に、エスプレッソを充実させていく予定です。

多くの方が参加するページを作ってまいりますので、投稿をお待ちしています。

日本全体のコーヒーのレベルアップに一助できればと思っています。

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さて、前回までは高温短時間焙煎と低温短時間焙煎を比較検討してきました。

[高温短時間焙煎と低温短時間焙煎 Ⅲ]で、最終工程の成分進化の詳細を検討することをお約束しましたが、この段階はいろんな変数が複雑に絡み合って、焙煎の最大の“謎”でもあります。

僕自身も整理がつかなくて、どう説明してよいか思案していました。

何回も書き直しては、読み返し、そして書き直し、、、を繰り返しても、後半の実態を上手く説明することが、なかなかできません。

それは、後半は後半で新たにをスタートをして、成分進化のペースを計測していくか?それとも従来どうりに投入からのペースだけを計測していけばよいか?の結論が出てこなかったためです。

???どういうことかと言いますと。

高温短時間焙煎も含めて通常の焙煎は、投入から豆の表面温度がどのくらいのペースで進行して、何分になったら何度でファーストクラックがきて、最後は投入から何分の時、何度で釜出しをするか?という、すべて投入時点からの時間進行で焙煎の進行管理をします。

(それが一番シンプルで、解りやすいからですが、もうひとつ重要な要素がありますが、後述します。)

低温短時間焙煎も同じアプローチでいってもよいのですが、水が抜けた時点で焙煎を前半と後半を明確に分けるため、水が抜けた時点から後半をスタートさせるほうが、より自然なアプローチのように思えます。

それは季節変動(気温・湿度)や豆の種類(標高の差・クロップの差)で水抜けのタイミングが微妙に違ってくるからです。

水抜けのタイミングが前後するということは、投入から水抜けまでの時間が前後するということで、それに応じて釜出しのタイミングも前後する、すなわちトータルの焙煎時間が変化することで、その方がより理想的な焙煎なのでは?と思ったからです。

ストップウオッチを2個用意して、1個はスタートからトータルの時間を計測し、もう1個は水抜けを確認して火力を一気に上げるときにスタートさせます。

たとえば、通常9分で水が抜けたら、火力を上げて、ストップウォッチをスタートさせ、2分後の11分で豆の表面温度が192℃にいるようにして、終了します。

この場合は、以前グラフで比較したように、高温短時間焙煎とピタっと釜出しの地点で一致します。

ところが、何らかの原因で、8分45秒で水抜けが確認できたら、この時点で一気に火力を上げストップウォッチをスタートさせます。

スタートからは上記の後半のペース、2分で192℃に収まるようにすると、トータルでは10分45秒の焙煎になります。9分15秒で水が抜ければ、トータル11分15秒の焙煎になるわけです。

水抜けが前後した分、トータルの焙煎時間は前後するわけです。

しかし、残念ながらこのアプローチはなぜかしっくりしません。

フレバーはそこそこに出てきますが、フラットでレスクリーンっぽく、どこかずれているような気がします。

要するに、ピタッとはまったカップが出てこないのです。

この“ピッタとはまった”カップは、高温短時間焙煎でよく経験された方もあると思いますが、焙煎の時間と温度の進行管理が、ピッタとはまったときに、抜けるような明るいクリーンと、ストラクチャリのカップが突如として現れます。

ですから高温短時間焙煎においては、この焙煎の時間と温度の進行管理を、まずもって重要なアプローチとします。

前回のプロバットによる焙煎も、豆の種類や投入量の差を、細心の注意をはらって、いつもと同じラインをトレースすることに腐心していました。

これらのことから、高温短時間焙煎の核心はこのピッタとはまる焙煎プロファイルを特定して、どんな条件下(投入量、豆の硬度、室温・湿度、etc.)であっても、そのラインを上手くトレースすることです。

そして、ここからが重要で、低温短時間焙煎は低温焙煎のアプローチを短時間焙煎に圧縮して取り込むことによって完結したわけですから、あくまで短時間焙煎の範疇にあって、その制約は拭い去ることができない宿命のようなもののようです。

ということは、投入から釜出し迄の全体の焙煎プロファイル、投入から11分で豆の表面温度が192℃前後、12分で197℃前後、、、と決まっていると解釈したほうが良いようです。

焙煎時間が前後することは、高温短時間焙煎がブレてしまうことと同じで、まさにピタッとはまらないのです。

じゃあ、8分45秒で水抜けを確認できたらどうするか?

この場合は、従来どうり間髪を入れずにすぐに火力を上げ、投入から11分で豆の表面温度が192℃になるようにコントロールします。

9分15秒の場合も、すぐに火力を上げて、投入から11分で豆の表面温度が192℃になるようにコントロールします。

水抜けのタイミングが違っていても、投入から釜出し迄の時間と豆の表面温度を一緒にさせることがカップを安定させることになるようです。

しかし、現実にはこの9分を基準として+-15秒の差はとてつもなく大きな差で、後半のデベロップメントの核心が垣間見えてきます。

基本の9分で水抜けの場合でも、2分で豆の表面温度を192℃にもっていくにはかなりの火力が必要で、通常の焙煎機の場合、バーナーの増設が必要になります。

水抜けが8分45秒の場合は、基本の9分で水抜けの場合より、15秒も早く火力を上げることができるため、バーナーの増設とあいまって、余裕をもって11分までに192℃まで持っていけます。

ところが、9分15秒で水が抜けた場合は、残り1分45秒で豆の表面温度を192℃にもっていかなければならず、原則9分のバーナー増設でも難しく、さらなる増設が必要になります。

この場合、ある一定以上の火力になると、強引な火力ゆえにカップが急に悪化しますから、
投入量の減量で対応せざるをえません。

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以上のように、低温短時間焙煎はあくまでも短時間焙煎の範疇にあり、後半の成分進化・デベロップメントは短時間焙煎と同じラインを描かなければなりません。

水抜けが遅くなればなるほど、後半のデベロップメントの時間は決まっていますから、よりタイトな時間内にデベロップさせなければなりません。

かつて恩師が、「水抜きはできるだけ奥の方が良い、しかし奥過ぎるとデベロップが不足する。」といっていた意味は、まさにこのことを意味しています。

タイトな時間内に釜の内部温度を上げて、豆の表面温度を引き上げるわけですから、数秒でも早く火力を上げたいのですが、水抜けを待たなければならないというジレンマがいつも付きまとうことになります

このジレンマを解決するには、水抜けを早く完了させればよいわけですが、これは焙煎機の能力に大きく依存しているため、その能力内で最善を尽くすには、投入量を減らすことで対応をせざるを得ないという現実がお解りいただけると思います。

優秀な純熱風型の焙煎機であれば、8分30秒以前に水抜けが可能と思いますが、純熱風型は低温焙煎を採用した場合、後半のデベロップメントにおいては欠点が出てきますので、ドラム型の焙煎機で水抜けを工夫(投入用の減量)するか、あるいは前半を純熱風、後半をドラム式といった併用できる焙煎機を考案すれば、理想的な焙煎ができると思います。

次回は、成分進化の進行法則・デベロップメントサイクルの謎に迫ってみたいと思います。