デベロップメントサイクル (補足)

投入からおよそ7分で、豆の表面温度が167℃に至るペースで焙煎を進行させ、11分で豆の表面温度が192℃前後に至って終了すれば、浅煎りの焙煎が完了します。
以後、1分後の12分には197℃前後、2分後の13分には202℃前後、といったように1分に5℃上昇させていけば、適正な成分進化・デベロップメントが達成されます。

、、、、、たった4行の文章にすぎませんが、これはまさに短時間焙煎の核心を語っています。

しかし、賢明なる読者なら、釜の内部温度については一切触れていないことにお気づきと思います。

具体的な焙煎作業は、上記の豆の表面温度の進行を達成するためには、どう釜の内部温度をコントロールするかです。

釜の余熱・投入温度・釜の内部温度のボトム・そして釜の内部温度の推移を操作しながら、上記の豆の表面温度の進行を適正にコントロールするわけですが、これには千差万別の方法があることはお解かりいただけると思います。

Photo
このブログでは最初に、一般に普及している高温短時間焙煎を示し、その次に低温短時間焙煎を示しました。

両者は上記の豆の表面温度の展開は同一ですが、釜の内部温度のコントロールは大きく違っていました。

(プロファイルの赤と青の点線をご覧ください)

高温短時間焙煎は投入から絶えず釜の内部温度を引き上げながら、その勢いで豆の表面温度を引き上げていき、後半は釜の内部温度を押さえながら、豆の表面温度の進行をコントロールします。

後半の成分進化の段階では、釜の内部温度が十分に上昇(200℃以上)しているため、豆の表面温度が急激に進行しやすいからです。

低温短時間焙煎は高い投入温度で投入して、釜の内部温度のボトムを高くして、その分内部温度を低めに、かつ一定にして豆の表面温度を引き上げていきます。

そのため豆の表面温度は水抜き中盤から徐々に上昇ペースを落としていきます。

やがて、投入から7分で、豆の表面温度が167度に至りますが、ここで注意が必要なのは、まだこの段階では水は抜けていないことと、この時点で、後半の成分進化のペースを検証するために、ストップウォッチでカウントします。

高温にしろ低温にしろ、短時間焙煎の成分進化の法則は、デベロップメントの実相で示しましたように、投入から釜出しまでの時間がきっちりと決まっているので、あえて後半からカウントしても意味がないように思いますが、成分進化の微妙な変化を探ることによって、その実相を理解することが出来ます。

(高温短時間焙煎の場合も、7分で豆の表面温度が167度に至っていますが、改めてカウントはしません。そもそも焙煎工程をはっきりと分けているわけではなく、投入からのカウントで成分進化の検証をしているからです。そして、このことが高温短時間焙煎の欠点の原因であるわけです。)

引き続き、釜の内部温度を180度前後に維持したまま、水抜けを注意深く探っていきます。

そして、カウントから1分40秒~50秒(投入から8分40秒~50秒)ころに至ると、豆がシュリンクして、水抜けが確認できます。すかさづ火力を全開にして、釜の内部温度を引き上げます。

(高温短時間焙煎の場合は、このように厳密に水抜けを把握していませんが、7分で豆の表面温度を167度に至らせ、8分、9分、10分、と豆の表面温度の上昇ペースをコントロールしながら、11分で豆の表面温度が191度前後に至らせて、浅煎りを完成させます。)

このタイミングを逃して後手にまわったら、成分の発達が不十分で、印象の薄いカップになります。

具体的には、およそ投入から8分50秒前後以降からの引き上げは、成分進化の遅れの原因になります。

これはカッピングと後半からのカウントで初めて解明できたことです。

以前、投入から6分で豆の表面温度が167℃に至るペースで検証していましたが、クリーンカップに欠けるため、水抜けの問題と判断して、1分延長して7分で167℃に至るペースにしました。

前半だけの延長で、後半の成分進化の段階はそのままですから、トータルの焙煎時間は1分伸びるだけです。(後半からのカウントを6分から7分にして、釜出しは浅煎りでトータル10分から11分になります。)

カップはクリーンカップになりましたが、まだスイーツやフレバーのボリュームが足らない印象でした。

1分の延長で、水抜けが良くなったことは明白ですから、延長前の6分では水が抜けきっていなくて、芯に残っていたと判断できます。

水抜けの判断も、6分の場合は8分前後(カウントから2分)で水抜けでしたから、7分の場合は9分前後を注意して探っていましたが、速いものでは8分30~40秒でシュリンクして、45秒前後に水抜けが確認できました。

最初は半信半疑で、定番どうり9分で引き上げていたのですが、1分延長は水抜けがそのまま1分延長するのではなく、少し早い段階で水抜けが出来てくるようです。

「もしかしたら!!」と直感して、8分45秒で釜の内部温度をすぐに上げて検証しました。

不足していたスイーツやフレバーのボリュームが増し、詳細なテロワールも確認できるようになりました。特にマウスフィールの領域において、その特性のオイリー・ミルキー・シルキー、、、といった感触の差が確認できるレベルになり、衝撃的なカップになりました。

クリーンカップはそのままですので、きらきらと輝くカップに、印象的な風味特性やその余韻を感じながら、アフターは心地よくフィニッシュします。

この9分と8分45秒の劇的な差はなぜなのか?は火力を上げてからの、釜の内部温度の推移が大きく作用しています。

このあたりが低温焙煎の火力を引き上げて、なおかつ成分進化が後手にまわらないピンポイントがありそうです。

7分で後半をカウントして、11分の釜出しということ、そしてその間の4分内に、豆の表面温度の上昇は167℃から191~192℃に上昇しなければなりませんが、水が抜けてから火力を上げられる、、、という制約がついています。

この制約は低温焙煎の宿命で、水が抜けなければ釜の内部温度は引き上げられないというカップの検証からの命題があるからです。

7分でカウントして火力を上げて、4分後に167℃から192℃に25℃上昇させるのは通常の焙煎機でも可能です。

これはちょうど、投入温度が高すぎたため、内部温度を抑え気味にして、豆の表面温度の進行をコントロールしながら、途中から後手に回るのを避けるために、釜の内部温度をあげていく、高温短時間焙煎と同じです。

投入から7分で167度の時点ではまだ水が抜けていないため、この時点から内部温度を上げていくと、雑味のある飲みにくいカップになります。

7分からのカウントはデベロップメントサイクルを確認するためにカウントをするだけで、水抜けとはなんら関係ありません。

さて、話を先に戻しますと、7分のカウントから注意深く水抜けを観察して、9分で内部温度を引き上げと、8分45秒で引き上げの内部温度の推移を比較してみます。

デベロップメントサイクル Ⅰ

前々回は、低温短時間焙煎の後半の成分進化(デベロップメント)の法則を探ってみました。

後半は、水抜きが完了したら、釜の内部温度を上げ、豆の表面温度の進行時間を変化させて,最適なロースティングポイントを見つけるわけですが、そこには重要な法則がありました。

通常、低温焙煎の場合、水が抜けてからストップウォッチをスタートさせて、後半のポイントを探っていく方法がベストと思われますが、この方法はどうもしっくりいきません。

水抜けの判断によって、スタートがまちまちで基準点が前後してぶれるため、正確なロースティングポイントを探ることができないためと思われます。

そこで、水抜けとは関係なく、どこかに一定のスタート地点を決めて、其処から最適なロースティングポイントを探ることで、糸口がつかめてきました。

スタートがぶれないため、後半の進化の時間と温度変化を正確に測って、カップを精査していくと、カップの変化がわかってきます。

突き詰めていくと、豆の表面温度が167度にいたってから、4分後に表面温度が191~2度前後で終了すれば、浅煎り=フルフレバーローストが出来上がります。

Photoこの場合、
投入から7分で表面温度が167度に至るようにすれば、高温短時間焙煎とまったく同じトータル時間となります。

(左のプロファイルは以前示した高温短時間焙煎と低温短時間焙煎を合体させたものです。)

この結果、たんに投入から時間を計測すれば済むことで、何ら難しく考えることはなかった結果となります。

しかし、このことは成分のデベロップメントはもっと早い段階、すなわち水抜け以前の段階で始まっていると捉えることもできます。

水ぬきの工程の段階で、デベロップしながら水が抜けていく・・・・・とイメージしていただければよいと思います。

焙煎を前半の水抜きと、後半の成分進化に分けるコンセプト自体は、焙煎を解かりやすく把握するにはいいのですが、これに厳密にこだわりすぎると、これもまた焙煎の迷路にはまり込むことになります。

水が抜けてから、成分のデベロップメントが始まると厳密に解釈して、其処から最適なロースティングを探ってもなんら回答は出てこないわけです。

むしろ水抜け以前のもっと早い時点からデベロップは始まっていて、そのあたりを基準点として固定して、最適なロースティングポイントを探っていけば、その最適解が得られます。

固定する基準点は豆の表面温度が150℃でも160℃でも良く、一度決めたら変更せずにその基準点から釜出し迄の時間と温度を検証していけば、良いわけです。

ただ、水抜けのペースも管理していかなければならないため、僕はもう少し後の豆の表面温度が167℃あたりを基準点にしています。

投入からその167℃までのペースをしっかりと管理して、水抜けを精緻に進行させ、167℃になったら今度は釜出しまでのペースを管理して、ロースティングポイントをはずさないようにすれば、焙煎の管理としてはほぼ完璧になります。

ここで、注意していただきたいのは、167℃の時点ではまだ水も抜けていないし、成分も未発達で、いわゆる水抜けと成分進化の曖昧なグレーゾーンということです。

このあたりを基準点にして、投入から基準点までの時間を操作して、最適な水抜けのペースを模索し、基準点から釜出しの最適なロースティングポイントを模索するのが焙煎の醍醐味と思います。

ピッたと上手くはまれば、今までなしえなかった、個々の豆が持つテロワールを引き出すことが出来ます。

模索を繰り返して出てきた結果、浅煎りの最適解は、投入から7分で豆の表面温度が167℃になり、かつその時点から4分後に191~2℃に至ることでした。

その1分後(12分)に豆の表面温度が197℃前後に至れば、中煎りとして最適なポイントになります。

そして、2分後(13分)202℃前後、3分後(14分)に207℃前後、、、といったように1分間に5℃上昇させることによって、中煎り以降の最適なロースティングポイントを見つけることが出来ます。

では、1分間に5℃上昇であれば2分30秒(13分30秒)で204.5度はどうでしょうか?

これはうって変わったように、フラットでレスクリーンになります。3分30秒(14分30秒)で209.5℃も同じで、カップはよくなりません。

どうやら進化のサイクルがあるようで、ベストなロースティングポイントから徐々にカップが悪くなり、そしてべストポイントから1分後に再びカップがよくなるといったサイクルがあるようです。

ベストポイントのときはブライトでストラクチャリでクリーンですが、それを過ぎるとブライト感が後退していき、フラットでレスクリーンになってきます。

ちょうどベストポイントから30秒後がこのピークにあるようで、再び改善しながら1分後のベストポイントに至るわけです。

(ライト、シナモン、ミディアム、、といったローストの段階を細かく分けた従来の方法は、カップからまったく意味をなさないと、ご理解いただけると思います。)

これを僕はデベロップメントサイクルといっていますが、あくまでも1分に5度上昇ペースが条件で、上昇ペースがこれより高かったり低かったりするとこのサイクルは成立しません。

偶然に13分で202℃前後で終了して、最適なカップが出てきても、1分後に7度上昇14分で209℃であれば、カップは良くなりません。

焙煎が捉えどころのない迷路のようなものになってしまう、後半最大の原因がここにあります。