そして、もうひとつ大きな収穫があります。
それは“焙煎時間”です。
勉強会当時は先生の低温焙煎メソッドと米国のスペシャルティコーヒーから伝播した短時間焙煎が混在している状況でした。
僕を含めて多くのメンバーはこの両者のメソッドを比較検討していましたが、焙煎そのものは時間がかかると明るさが失われる傾向があり、スペシャルティコーヒーのライブリーでブライトな特性が活かされないことが分りました。
特に低温焙煎は注意をしていないと、時間をかけてしまう傾向があり、その結果カップが暗くなってしまいます。
当時“低い温度で豆の芯からじっくりと水を抜く”という、聞こえの良いフレーズがあって、だらだらと水抜きが長くなる傾向がありました。
この状況に、後半の成分進化で釜の温度を十分に上げられないと、さらに特徴のないただ暗いだけの悲惨なカップになります。
これと、高温短時間焙煎と比較カップすれば、高温短時間焙煎のほうが明らかに魅力的です。
生き生きとした明るさや、魅力的なフレバーに圧倒されます。
そのため、欠点であるアフターやマウスフィールの雑味が強調されている状況であっても、それを黙認してでも高温短時間焙煎を選択してしまいます。
しかし、この雑味はエスプレッソの抽出においては、最悪の状態を作り出してしまいます。
エスプレッソ自体がコーヒーのエッセンスを抽出するため、欠点もより大きく強調してしまうからです。
エスプレッソの抽出の操作方法が、すっきりと統一できないのは、この焙煎による雑味が原因で、純粋な抽出論理とこの雑味をいかに出さないかの方法論が、混同してしまっているためで、この雑味さえなくなれば、もっと単純明快に抽出論理が統合できるはずです。
僕は低温焙煎にこだわりつつも、短時間焙煎も並行して検討していましたが、やがてこの二つを上手く合体させる着想を思いつきました。
短時間焙煎の明るくスカッとした特長を活かし、その欠点であるアフターやマウスフィールの雑味を低温焙煎のノウハウを応用することによって、改善できるのでは?と、、、
低温焙煎でいつも失敗するのは、焙煎時間が長くなること、そして成分進化に必要な釜の内部温度に素早く立ち上がってくれない(=豆の表面温度の進行が速く立ち上がってくれない)ことでした。
ですから、低温焙煎を成功させるためには、水抜きの時間を短くして、水が抜けたら釜の内部温度を早く立ち上げればよいわけです。
短時間焙煎があくまでもメインで、それに低温焙煎のメソドを組み込むという発想です。
短時間焙煎の長所はそのままにして、欠点であるアフターやマウスフィールの雑味を、低温焙煎メソドを組み込むことで解消できるのではないか、ということです。
釜の内部温度をすばやく立ち上げるには、バーナーの増設というハード面でクリアーできますが、前半の水抜き時間を短くするには、内部温度を高く持っていかなければならず、こうなると“低温”焙煎ではなく高温短時間焙煎に近くなってしまいます。
しかし、そもそも高温とは何度で、低温とは何度を言うのでしょうか?
あくまでも相対的な意味で、高温短時間焙煎の温度帯に対して、低い温度帯だから低温焙煎と表現していると解釈すれば、もっと内部温度が高くても良いように思えます。
なぜこんな発想をしたかというと、サンプルロースターでの低温焙煎が上手くいくのは、自然排気のため、火力を抑えて一定にしていても意外に高い温度帯で推移しているからではないかと、推測したからです。
本焙煎においては、強制排気がゆえに、どうしてもカロリー不足に陥って時間がかかってしまいました。
これを短縮していくためには、釜の内部温度を上げるしかありません。
いろいろな温度帯を模索しましたが、具体的に一番効果が表れたのは、180℃前後で推移する温度帯でした。
もちろん水抜き工程で、この温度帯を一定にする場合、投入温度によって前半の時間は大きく変化します。
高温短時間焙煎と一致させようとすれば、投入時の内部温度を230℃前後まで持っていくことが必要になります。
これは、高温短時間焙煎の投入時の内部温度が210℃前後であるため、かなり高い温度で投入することになりますが、その後の内部温度を180℃前後に収拾させて一定にするため、急激に進行しようとする豆の表面温度が徐々にペースダウンして、最終的には高温短時間焙煎と同じペースに落ち着くことになります。
その後は、高温短時間焙煎と同じ後半の成分進化のラインをトレースすれば、低温焙煎を取り込んだ短時間焙煎=“低温短時間焙煎”が出来ます。
投入から7分で豆の表面温度が167℃の至り、その後8分40秒前後に水が抜け、すかさず釜の内部温度を急上昇させて、11分で豆の表面温度が192度前後に至れば浅煎りが完成します。
カップは明らかにアフターやマウスフィールの歪さが見事に解消されることによって、アシディティ・スイート・フレバーの質が改善されました。特にブライト感が鮮やかになり、フレバーの輪郭がはっきりとしてきて、テロワールの表現が出来るようになったことは驚きでした。
ただ若干スイートやボディが不足気味で、このためストラクチャが若干欠けたフラットな印象も拭い去れません。豆自体の劣化も早く、3~5日ほどたつとボディが抜け落ちてしまった印象が強くなりす。
3~5日後のカッピングにおいてもブレイク以前に、表層の粉が沈んでしまう現象が顕著になってきます。ジョージ・ハウエルの豆もこの傾向が顕著で、短時間焙煎の浅煎りの欠点であるとおもいます。
以上のことから、浅煎りであってももう少し時間を延長すれば、トータルカロリーの増加によって、上記の欠点は解消されると推測されます。
12分で197℃・ミディアム、13分で202℃・ハイ、14分で207℃・フルシティ、15分で212℃・フレンチに至りますが、カップからフレンチが一番好印象です。スタバと同等なパフォーマンスを示します。
11分の浅煎りと15分のフレンチと比較することは無謀のように思われますが、トータルバランスという観点からカッピングを試みれば、明らかに15分のフレンチのほうが勝ります。
14分のフルシティと15分のフレンチにしてみても状況は同じで、トータルバランスという観点からは明らかに15分が勝ります。
ロースティングの差がもたらす、印象度の違いははっきりと確認できますが、それを踏まえて真っ当な飲料としてのトータルバランスが良いかどうかということも、重要なポイントとなります。
前半の水抜き工程を、投入から7分で豆の表面温度が167℃に至る工程に固定すれば、その後は成分進化の法則に従って、浅煎りから深入りまで、1分ごとに5度上昇させていきますから、ローストの度合いによって焙煎時間が長くなっていきます。
そもそも浅煎りほど時間が短く、深入りほど時間が長くなるのは焙煎の常識としてとらえられていますが、どうやらこの常識を覆すことが、焙煎の核心に迫ることになりそうです。
11分の浅煎りの欠点を改善するためには、焙煎時間を少し延長することによるトータルカロリーの増加で解決する直感をカッピングから得ましたが、これも前半の水抜き工程を自在に動かすことが可能となったからです。
水抜き工程を1分延長することによって12分で192℃の浅煎り、2分延長で13分で192℃の浅煎り、、、が出きます。
これは前半の水抜き工程の特徴で、投入から豆の表面温度が167℃に至る時間が、7分以上の場合、そこからおよそ1分45秒前後の時点でシュリンクが始まり水抜けが完了します。
7分の場合は8分45秒、8分の場合は9分45秒、9分の場合は10分45秒で水抜けのサインが出ます。
それぞれ、投入時点での釜の内部温度を低くしていくことによって、豆の表面温度が167℃に至る時間を調整していきます。
後半の成分進化のパターンは決まっていますので、トータルの焙煎時間も前半が延びた分だけ伸びることになります。ただし、水抜けの時間が伸びた分、というか焙煎時間が伸びた分、余分にトータルカロリーが与えられるわけですから、同じ豆の表面温度・浅煎りでも焙煎度は若干違ってきます。
11分の豆の表面温度192℃の浅煎りから、前半を1分延長して12分の豆の表面温度192℃の浅煎り、そしてもう1分延長して13分の豆の表面温度が192℃の浅煎りを比較カップすることが可能となったわけです。
そして、さらにエスカレートして14分と15分の豆の表面温度192℃の浅煎りを比較カップした時、15分焙煎の懐の深さに驚きました。
全体のバランスが均衡して、浅煎りの飲料としての真っ当さが表現されています。特にマウスフィールが抜群で、その原因はストラクチャリが表出されているためと思われます。
14分の浅煎りは、おそらくカッピングや競技においては多くの評価を集めると思います。
カッピングにおいて、ドライ・クラスト・ブレイクにおいて、これぞ浅煎りの定番!と大きな印象をもたらすためです。
しかし、冷静に15分のものと比べれば、14分は邪道のごとく雲泥の差を、マウスフィールを得意とする先生なら感じて頂けると思います。
ファーストインプレッションとトータルバランスにおける差を、冷静にマウスフィールの次元で判断できることが必要と痛感しています。
他の焙煎度においても、15分の焙煎時間がもたらすバランスの良さは、他の時間のものを圧倒するほどの印象をもたらします。
例えば、低温・短時間焙煎における13分のハイローストを、前半を1分延ばすことによって、14分のハイローストが出来ます。また、2分延ばすことによって15分のハイロースト・3分延ばすことによって16分のハイローストが出来ます。
この4つのハイローストを比較カッピングすれば、焙煎時間がもたらすトータルバランスをも含めた総合評価が可能となります。
13分・14分はフレバーの好印象をもたらしますが、やはり15分の落ち着きのある、懐の深さにはおよびません。
16分に至ってはストラクチャリやスイートが急激にスポイルされることで、繊維質がむき出しとなって、ビターやアストリンジェント=雑味が出てきてしまいます。
特にシティロースト以上の、深くなればなるほど16分以上の焙煎は、むき出しの繊維質によって、飲むに堪えれないカップになります。
このように浅煎りや、ハイローストに限らず、すべてのローストにおいて15分の焙煎が、その完成度を表出しているカッピングの結果を得ています。
このことはまだ、ブログ“焙煎日記”に書いていませんが、いずれまとめて公表していかなければいけないと思っています。
今、ブログを僕のHPに移設する作業をしています。
HP自体を焙煎に特化して、多くの方が交流できる場所としていこうと思っています。
猛暑が続きます。お体ご自愛くださいませ。
敬具