焙煎日記 焙煎時間の変化によるカップの変化Ⅳ


最初の11分の焙煎は高温短時間焙煎と最終時間が一致します。

投入から7分で、豆の表面温度が167℃に至り、8分45秒で水が抜け、火力を最大
にして、11分で豆の表面温度が192℃に至ってフィニッシュします。

投入から釜の内部温度が180℃まで落ちていって、その後180℃を維持して(釜
の内部温度を上昇させない)、投入から7分後には、豆の表面温度が167℃に至る
ように投入時の釜の内部温度と表面温度を逆算するわけです。

僕の焙煎機の場合、試行錯誤の結果、投入時の釜の内部温度は230℃で、その時の
豆の表面温度のセンサーは192.5℃で相対する状態がベストになります。

これは、ダンパーを閉じた状態で空焚きするため、こうした相対関係になります。

前バッチが終了したら、冷却中に下のダンパーは閉じられているため、内部温度と
表面温度のセンサー表示は徐々に下がっていきますが、やがて内部温度と表面温度
は一致する温度帯に至ります。

僕の焙煎機の場合、140~160℃前後で一致します。

丁度、シリンダー内の温度が一定になった状況と考えられますが、焙煎機自体の熱気の
状態と室温の関係で温度の幅はあります。

この一致した時点で、再び釜を空焚きして、投入時の内部温度と表面温度を変化させ
ながら、最適な温度を模索していきます。

そして、投入から1分半で中点に至り、反転して5分半(投入から7分)には167℃に至る
速いペースを維持し、しかも内部温度を上昇させないという条件を満たすには、230℃
というかなり高い投入温度が必要となります。

上のおなじみの高温短時間焙煎と低温短時間焙煎を合体させたプロファイルを
見て頂くと、投入時の釜の内部温度(排気温度)差がお解りいただけると思います。

“低温短時間”なのに”高温短時間”より圧倒的に投入時の釜の内部温度を高く
することは、その後の釜の内部温度を上昇させずに、高温短時間焙煎と同じよ
うに7分で167℃に至るようにコントロールするためです。

それに対して、高温短時間焙煎は投入から比較的高い火力で、焙煎を展開させ
ていきますから、7分で167℃に至るようにするには、投入温度が高すぎては
上手くいきません。

以上のことからドラム式の焙煎機の場合、投入時の釜の余熱と火力との相関関係
で焙煎の進行ペースが決定され、水抜けの良否もそれによって決定されることと
なります。

そして、水抜けがうまくいく焙煎の温度展開はほぼ決まっているように思えま
す。(高温短時間焙煎でも7分で豆の表面温度が167℃・11分で192℃で通過してい
ます。)

この11分は、釜の内部温度が高いため、投入時の火力を抑えて、中点が目的の
温度帯に上手く着地するようにタイミングを取っていきます。

しかし、火力が少しでもオーバーすると、思いのほか中点が高くなってしまい、
あわてて火力を落として内部温度を下げても、167℃の時点が6分代になってしま
ったり、また警戒しすぎると釜が冷めすぎて、167℃が7分を過ぎてしまったりと、
タイミングをとるのがなかなか難しい焙煎です。

カップは、アシディティのブライト感が鮮やかで、フレバーの輪郭がはっきりと
していて、テロワールの表現が印象的です。

ただ若干スイートやボディが不足気味で、このためストラクチャが欠けたフラットな
印象も拭い去れません。

豆自体の劣化も早く、3~5日ほどたつとボディが抜け落ちてしまった印象が強く
なります。2~3日後のカッピングにおいてもブレイク以前に、表層の粉が沈んで
しまう現象が顕著になってきます。

以上のことから、もう少し時間を延長すれば、トータルカロリーの増加によって
上記の欠点は解消されると推測されます。

この11分の焙煎を、投入から8分で豆の表面温度が167℃に至るようにコントロール
すると、9分45秒前後で水抜がぬけ、12分の浅煎り192℃の焙煎が出来ます。

1分時間を延長することによって、カップが向上します。

釜を空焚きして、釜の内部温度が220℃・表面温度センサーが187.5℃に至って、
投入します。11分の焙煎よリ、投入時の釜の内部温度を下げることによって、豆の
表面温度が167℃に至る時間を1分延長します。

中点が取れたら、内部温度を180℃に維持して、投入から8分で豆の表面温度が167℃
に至るように、投入温度を逆算していますが、より核心は中点の時点で、釜の内部
温度が180度に至って、豆の表面温度が106℃で対峙するように投入からの火力が
ポイントになります。

カップはブライト感はそのままで、甘さ・滑らかさが増し、よりフレバー輪郭が明確
になってきますから、魅力ある印象的なカップになります。

顧客やカッパーはこのあたりを支持する方が多いと思います。
フルフレバーローストの定番と言ったところでしょうか。

11分と12分の合体のプロファイルを上に表示しました。上記の説明をこのプロファイルで
イメージしていただければ、ご自分の焙煎機でのプロファイルのシュミレーションが
見えてくると思います。

12分の焙煎を、さらに1分伸ばし13分の焙煎、そしてさらに1分伸ばした14分の焙煎、
さらに15分の焙煎と時間を変化させることによって、カップの変化を検証していきます。

 

焙煎日記 焙煎時間の変化によるカップの変化Ⅲ

明けましておめでとうございます。
旧年中はご拝読ありがとうございました。
本年も、よろしくお願いいたします。

さて、去年・2017年は僕の焙煎にとって、まさにエポックメーキングな年でした。

現在主流の短時間焙煎に低温焙煎の工程を取り込んだ“低温短時間焙煎”を考案し、その短所と長所をカッピングによって、検証を重ねてきました。

その検証過程で、投入から7分で豆の表面温度を167℃にすれば、8分45秒前後で水が抜けますが、さらに投入から1分伸ばして8分で豆の表面温度が167℃にすれば、9分45秒前後で水が抜ける現象を確認しました。

そして、以降167℃の時点を1分ずつ延長させていくと、水抜けも1分ずつ後半に
延長していくことが検証できました。

これは、後半のデベロップメントの工程は時間が決まっていますから、仮に
釜出しの温度を192℃にすれば、焙煎時間が1分ごとの差がある焙煎が出来ます。

投入から、豆の表面温度が167℃至る時間を7分から11分まで、1分ごとずらす
と、192℃の浅煎りが11分から15分までの5種類が出来ます。

理屈から言えば当たり前のことであり、何気なく通り過ぎてしまいがちですそれが、その隠された画期的な意味がカッピングを繰り返すうちに分ってきました。

それは、“焙煎時間の変化による成分進化”を検証できるという、従来の焙煎ノウハウでは全くできなかったことが可能となることです。

なぜなら、それらの5種のカッピング対象が、全て焙煎の基本をクリアーしているからです。

水抜きはできているか?・デベロップメントは適正か?という基本を全てクリアーしていますから、ダイレクトに“焙煎時間の変化による成分進化”を検証でき、適正な焙煎時間を見つけ出すことが出来ます。

上記のグラフは豆の表面温度が192℃【浅煎り】の焙煎時間の変化を表していま
す。

赤いグラフは、投入から7分で表面温度が167℃に至る最初のモデルで、短時間焙
煎のものと同じペースです。点線(ET)が釜の内部温度を表示し、実線(BT)が豆の表面温度を表示しています。

空焚きして、豆の表面温度センサーが192.5℃、釜の内部温度センサーが230℃を表示した時点で豆を投入しています。

この焙煎を1分延長するためには、投入時の釜の内部温度と表面温度を落として投入します。オレンジの点線と実線がそれに対応します。

このグラフはあくまでも実際の変動した数値を、解りやすくするためにデフォル
メしたものです。

生豆の硬度(標高差)とか、クロップの経過、スクリーンの差、部屋の温度変化に
よって変化しますから、それらを見越しての調整が必要です。

基本は投入から2~3分までに、釜の内部温度と豆の表面温度の関係をキッチリと
調整することによって、その後の釜の内部温度を180℃に維持すれば、目的とする時間に豆の表面温度が167℃に至らせることが出来るようにすることです。

そうすれば、おのずとその後1分45秒には水抜けが完了します。

次回から11分の焙煎から12分、13分、14分、そして15分と変化させていくポイントとカップの変化を、プロファイルを中心に説明していきます。