焙煎日記 15分焙煎の要点

前回までは同じ釜出しの温度で、時間を延長することによってカップがどう変化するかを
検証してきました。

具体的には、釜出し温度192℃の浅入りの焙煎を11分から1分ずつ延長して、11分・12分
13分・14分・15分のカップの変化をみてきました。

それは突き詰めると、ブライト感とストラクチャリの反比例関係といえました。

11分のブライトから時間の経過とともに、スイートやマウスフィールが向上してきて、
15分でブライト・スイート・マウスフィールのトータルバランスが取れ、ストラクチャ
が構成されます。

そして、以前から指摘したように、16分、17分と焙煎が経過するとともに、異質なビターが出てきて、
トータルバランスが崩れてきます。

そして、15分の焙煎が全てのロースト段階で、まっとうなカップが出てきますが、
12分~14分の焙煎も含めて、これらはオーバラルやバランスの評価で各人の好みの領域に
なると思います。

下のプロファイルは、全てのロースト段階での15分焙煎を示しています。

釜の内部温度がやかましくて見難いですが、豆の表面温度(実線)だけを見て頂ければ、解ると思います。

よく見てみるとお分かりいただけると思いますが、浅煎り(192℃)の11分の焙煎をそのまま焙煎
を継続していけば、15分で212℃のフレンチローストに至ります。(14分で207℃のフルシティロ
ーストが出来ます。)

また、浅煎り(192℃)の12分の焙煎をそのまま焙煎を継続していけば、16分のフレンチが完了します。
(勿論、15分で207℃のフルシティローストが出来ます。)

この、15分と16分のフレンチを比較するすると、異質なビターの存在が発見できます。
繊維質がむき出しになり始めてきて、バランスを崩していることがうかがえるわけです。

16分以上の焙煎がいかにダメか、今回の検証で発見できました。これも恩師の低温焙煎メソドで
あったから検証できたわけで、改めてこの焙煎ノウハウの偉大さを実感します。

また、某大手の缶コーヒーやレギュラーコーヒーの商品コピーで「じっくりと時間をかけて、
丁寧に焙煎しました。」といったコピーをやたら見聞します。

商品イメージを作り出すために、焙煎がいかにイメージで、いい加減に語られているか、、、、
愕然とします。

語るだけではなく、実際にそのように焙煎が行われていれば、商品の品質は想像できます。

カッピングスキルの欠如したところには、美味しいコーヒーは存在しません。

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さて、後半の成分進化の良否は、プロファイルの後半の“傾き”によって決定されます。

今まで、この傾きは所与のものとしてきましたが、次回からはこの傾きにスポットを当て、
焙煎の最重要項目を検証していきます。

焙煎日記 焙煎時間の変化によるカップの変化Ⅴ

前回に引き続き、焙煎時間の変化によるカップの変化をみていきます。

12分の焙煎を13分に延長するために、投入の釜の内部温度と表面温度を低くします。

前バッチの冷却ダンパーのままで、釜の内部温度と豆の表面温度センサーが一致する
タイミングで着火して、釜の内部温度を上げます。

内部温度が210℃、豆の表面温度センサーが182.5℃で対峙したら、投入して1分30秒に
釜の内部温度が180℃、表面温度が102℃に至って上昇に転じて、9分で表面温度が167℃
に至ります。

水抜けはおよそ投入から10分45秒前後に完了し、釜の内部温度を一気に上げて、13分で
豆の表面温度が192℃に至って終了します。

ここで注意していただきたいのは、釜の内部温度を12分のときより高くしないと、
豆の表面温度の上昇が鈍り、13分で192℃に至ってくれません。

具体的には、12分の時には内部温度を最大値で235℃にもっていったものを、13分では
240℃までにもっていきます。

これは12分の水が抜けた時点(9分45秒前後)の豆の表面温度より、13分の水が抜けた時点
(10分45秒前後)の豆の表面温度のほうが若干低いため、釜の内部温度をより高く持って
いかないと、終了時点で192℃前後に至ってくれないからです。

14分・15分と延長したプロファイルを見て頂ければわかりますが、時間を延長することに
よって、水が抜けた時点の豆の表面温度が徐々に低くなっていきます。

基準値を167℃として、そこに至らしむ時間を延長することによって、水抜けの時点の時間は
比例して延長しても、167℃からの上昇ペースが徐々に鈍くなってくるため、水抜けの時点での
表面温度は低くなってくるわけです。

13分のカップは12分のブライト感が落ち着いた感じになり、甘さやボディが強くなってきます。

対象とする豆が、ハニープロセスのように甘さや滑らかさが特徴である場合、この13分の
焙煎のほうが12分のものより、より特徴を捉えて表現することが出来ると思います。

14分の焙煎は豆の表面温度センサーが177.5℃で、それに対峙して釜の内部温度が200℃に至った
ら、豆を投入します。

投入後1分30秒前後で豆の表面温度が96℃に至り、反転上昇していき10分で豆の表面温度が
167℃に至ります。

その時の釜の内部温度はずっと180℃ですが、これは説明が複雑にならないように、便宜上一定
として仮定しているだけで、実際は温度はバラバラです。

釜の過熱状態や室内の温度・生豆の温度やスクリーン・硬度やクロップの経過で、容赦なく
変化してしまいます。

投入時での釜の内部温度や豆の表面温度のセンサー表示は、一応の目安であって、投入後
上記のような状況で、豆の表面温度の中点が前後した場合は、釜の内部温度を上げ下げして
調節していきますが、上記のプロファイルの5分前後(水色:豆の方面温度144℃)には修正でき
るようにします。

その後180℃を維持していけば、10分で表面温度が167℃に至り、11分45秒前後で水抜けが完了
します。

カップは奥行きが出てきて、ストラクチャが構築されてきたことが伺えます。その分ブライト感や
フレバーの印象が少し後退し始めるため、ファーストインプレッションとストラクチャやアフターの
印象がともに中途半端で、それが災いしてインパクトが薄く中途半端な感じがします。

しかし、私たち日本人は差し出がましいことは避け、穏便に振る舞うことを美徳としていますが、
カップは丁度このような特徴で、悪く言えば特徴がないのですが、大方一般の日本人はこれを“良し”と
すると思います。

ブレンドなどでは、苦みや酸味に偏ったものではなく、かつフレバーも突出したものでなく、
バランス良くまとまっている、、、、といったブレンドを作るための焙煎時間としての選択肢は
あると思います。

15分の焙煎は豆の表面温度センサーが165℃で、それに対峙して釜の内部温度が190℃に至った
ら、豆を投入します。

投入後1分30秒前後で豆の表面温度が91℃に至り、反転上昇していき11分で豆の表面温度が
167℃に至ります。

かなりゆったりした放物線を描き、水抜けの時点での表面温度も低く、かつ釜の余熱も冷めているため、
今まで以上に釜の内部温度を上げていきます。

具体的には245℃から250℃までもっていかなければ上手くいきません。
(以前、240℃以上や過激な火力はカップが歪むと思っていましたが、時間の延長とともにカップの問題はなく
なっています。)

カップはストラクチャやアフターがはっきりと表れてきて、滑らかさとか甘さの印象度が強くなってきます。

ストラクチャやアフターの奥行きが出てくることによって、後退し始めた感のファーストインプレッションの
明るさやフレバーが持続する結果となり、12分と違った領域で印象度が強くなります。

明るく目の覚めるようなブライト感はありませんが、フレバーの余韻を残しながらきれいにフィニッシュ
しますので、冷めれば冷めるほどその印象度はアップします。

しっとりとした奥行きのあるカップは甘さや滑らかさを感じ、魅力的なフレバーは咽喉から鼻に抜けて、
余韻を残しながら心地よくフィニッシュします。