焙煎ノウハウが急激に進展して、この内容を解りやすいようにグラフと数値で
示しましたが、これがかえって複雑すぎて、混乱を招いたようです。
僕自身もあまりにもの急展開についていけない状況で、戸惑いながらもこれを
まとめ上げるのに必死で、とりあえず客観的なプロファイルを示すことで精一杯でした。
でも、一方でこの流れが間違ているのではなく、なにかに導かれたようにく、焙、
煎の核心を極めていく流れを感じていました。
最近になって、膨大なカッピングから、これを上手く咀嚼して、皆様に説明できるまでの
確信を得られ、ようやく僕なりのかみくだいた説明が出来るようになりました。
以下、まとめてみます。
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【水抜き工程】
焙煎前半の水抜き工程は、生豆組織が持つ水分を極力均一に抜いて、焙煎後半の工程で
生豆が持つ成分を十分に進化できるように御膳立てする工程です。
“極力”というのは完璧という意味ではなく、“できる限り”という意味においてで、
その後の成分進化の工程でも水分は抜けていくことを織り込んでいます。
水が完全に抜けてから後半の成分進化の工程に移行するということではなく、焙煎終了の
時点で成分進化と水抜けも完了する、、、ということです。
この“成分進化と水抜けが同時に完了する”ということがとても重要で、このことが焙煎の
核心のように思います。
それは、焙煎時間が一定の時間内に収まることによって、カッピング項目における、フレバー
・アシディティ・スイート・マウスフィール、、、といった項目をトータルとしてまとめ上げ、
飲料としてのバランスやオーバラルを完成するからです。
焙煎時間が短すぎても、長すぎても真っ当な焙煎は完成しません。
このことをカッピングで突き詰めていくと、15分という時間が大きくクローズアップしてきます。
そして、驚くべきことに、浅煎りでも、中煎りでも、深煎りでも、全て15分に収めることがベスト
であることが、カッピングから導き出されます。
浅煎りは短く、深煎りは時間が長いというこれまでの暗黙の了解事項が完全に吹っ飛んでしまう
驚くべき結果です。
なぜ15分か?という理由はまだ導き出されませんが、豆が加熱されて科学変化する過程において
15分が、私たちの味覚感覚にフィットするということだと思います。
14分だとフラットで、15分になるとストラクチャリになり、16分になると繊維質が出てきて
アフターが悪くなります。不思議とどの焙煎度でも同じカップが出ます。
このカップの結果から、全ての焙煎度を15分に収めることが、ベストであると判断しました。
そもそもこの結果が導き出せたのは、水抜きと成分進化を分けて焙煎する低温焙煎メソドがあった
からで、今の主流の高温短時間焙煎メソドでは発見できないと思います。
低温焙煎メソドで、前半の水抜き工程の進行を模索しているとき、投入から豆の表面温度が167℃に
至って、その後おなじ内部温度を維持していくと1分30~40秒後に、大まかな水抜けが完了が確認
出来ます。
そして、投入からこの167℃に至る時間を、当初の7分から1分づつ伸ばしても、水抜けは1分づつ
伸びる現象も確認できます。これは投入温度を低くしていくことによって167℃に至る時間を操作
していきます。
現時点では、最大11分という大幅な時間延長でも、その後1分30~40秒に、すなわち12分30~40秒
の時点で、概ね水が抜けることを確認しています。
このことは何を意味しているかといえば、概ね水が抜けてから最終の焙煎終了までの時間と温度は
決まっていますので、結果として15分で浅煎りから深煎りまでカバーすることが可能となるわけです。
【進化工程】
後半の進化の工程は、大まかな水抜きを経た後、釜の内部温度を速やかに上昇させて、成分の進化
を適正なものとする工程です。
前半に大まかに水抜きをして、成分進化工程で成分進化を十分にしながら、最終的に水抜きも
完了する工程です。
全て投入から15分で豆の表面温度が192.5℃・197.5℃・202.5℃・207.5℃・212.5℃になれば完了です。
この進化工程は低温焙煎であっても、高温焙煎であっても同じペースで決まっています。
~浅入りの場合~
投入から11分で豆の表面温度が167℃に至るペースを作れば、12分30~40秒の
時点で概ね水が抜け、釜の内部温度を一気に上げて、投入から13分30秒で177℃前後・14分30秒
188℃前後そして15分で192.5℃に至れば浅煎りが完成します。
通常の国産焙煎機では、投入時の釜の余熱を上手く作れば、水抜き工程は上手くトレースできますが、
この進化工程をトレースすることはほぼ不可能です。
バーナーを増設し、投入量を少なくすることでトレースが可能となります。
大まかに水が抜けた12分30秒前後(豆の表面温度が170℃前後)で、一気に窯の内部温度を上げても、
火力不足が原因で、1分後には豆の表面温度が177℃前後・2分後には188℃前後に上昇することが出来ず
後手になると、カロリー不足が原因で成分進化が微妙に変化します。
●上昇があと一歩及ばなかった場合、クリーンや酸のブライト感はそれらしく出ますが、進化不足による
フレバーと甘さの合成が不足して、輪郭がはっきりしないぼけたカップになります。
●上昇が全く後手になった場合、アフターに重い酸の違和感があり、レスクリーンになります。この工程で
のカロリー不足が最終的な“トータルとしての水抜け”に影響していると思われます。
ここで注目していただきたいのですが、浅入りの場合、釜の内部温度を上げてから1分には豆の
表面温度が7度上昇し、2分には10℃上昇しますが、その30秒後には4.5℃上昇(1分で9℃)にペース
ダウンしなければなりません。
これは一気にガス圧を上げて、釜の内部温度を上げていっても、どこかのタイミングでガス圧を下げて、
豆の表面温度の上昇ペースを抑えることを先取りすることが必要であることを意味しています。
このタイミングは、投入する豆によって千差万別で、有能なローストマスターは経験値によって判断
します。焙煎が“クラフトの世界”であるといわれる所以です。
例えば、スペシャルティのニュークロップは投入から水抜けまでは恐ろしいほどの早いペースで進んでしまう
ため、投入温度を思いのほか下げて投入しますが、いざ後半になったら釜の内部温度を思いのほか上げないと
豆の表面温度が上昇しないといったように、豹変します。
通常は釜の内部温度を240℃くらいに上昇させてタイミングを計って、その後ガス圧を下げて内部温度が
230℃くらいに下げていけば、15分で192.5℃になるものや、250℃まで上げて、そのままを釜出し迄維持し
なければ、15分で192.5℃に至らないニュークロップもあります。
ケニアのAAやグアテマラ・コロンビアのウオッシュドはその典型で、標高(硬さ)とスクリーンが大きく作用
していると思います。
また、ニュークロップでも、ドミニカのナチュラルのように何らかの処理がされて、豆の繊維組織が変化
しているものは、後半はガス圧を思いのほか抑えていかないと、急激に進行してしまいます。
釜の内部温度を230℃以下に抑えて、その後タイミングをとっていけば、15分で192.5℃に収まります。
最近入荷したコロンビアのエル・ミラドールもドミニカと同じように特殊な精製処理?で、230℃以下に
抑えないと、15分で192.5℃には収まらず、一気に表面温度が上昇してしまい、ブライト感が失われて
、レスクリーンになります。
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