低温焙煎の進化Ⅲ

【後半の成分進化の工程】

豆の水分が抜けた後、速やかに釜の内部を上昇させて、豆の成分を適正に進化させることが、後半の最重要課題です。

適正に進化する時間と温度(豆の表面温度)の関係は、ほぼ結論が出ていると思います。

その結論は、豆の表面温度が167℃前後になってから、4分後に豆の表面温度が192℃前後に上昇していること、そしてその後は1分ごとに5度上昇させていくことです。

具体的には、167℃から出発して5分後には197℃、6分後には202℃、7分後には207℃、8分後には212℃といったペースで、豆の表面温度を上昇させれば、豆の成分を適正に進化をさせることが出来ます。

この上記のペースより遅かったり、速かったりすると成分進化が適正になされず、飲料としての魅力に欠けてしまいます。

早ければ刺激的なアフターがでて、遅ければフレバーやスイートの印象度が下がります。

これは短時間焙煎であっても、短時間低温焙煎であっても、はたまた15分低温焙煎でも共通した進行ペースです。

投入からどのような過程を経て豆の表面温度が167℃になろうとも、その後の成分進化のペースは決まっているのです。

ということは、投入から豆の表面温度が167℃に至るまでの時間によって、焙煎全体の時間が決定されるということになります。

短時間焙煎は強い火力で、投入から7分前後で豆の表面温度が167℃に至りますが、その後投入から11分・192℃(浅煎り)~15分・212℃(深煎り)で焙煎を完了します。

(焙煎機の能力や投入量の減量によって、投入から167℃に至るまでの時間が7分より短くなっても、大枠としての水抜けが十分であれば、もっと短い焙煎が可能となります。)

また、低温短時間焙煎も投入から7分前後で豆の表面温度が167℃に至り、その後11分・192℃(浅煎り)~15分・212℃(深煎り)で焙煎を完了するのは短時間焙煎と同じです。

ただ投入から7分で167℃に至るまで(正確には水抜けが確認できる8分30秒前後・豆の表面温度が171℃前後に至るまで)、釜の内部温度を一定(180℃)にして上昇させないため、投入からの豆の表面温度進行が腰砕けにならないように、投入時の釜の温度をかなり高く設定して投入します。

そして、15分低温焙煎も短時間焙煎や低温短時間焙煎と同じように、豆の表面温度が167℃に至ってから完了までの温度上昇ペースは同じです。

ただ、浅煎りから深煎りまで全て15分で焙煎しては?という大胆な発想から、投入から167℃に至るまでの時間を意図的に操作しています。

従来の短時間焙煎や低温短時間焙煎の浅煎りは11分ですが、これを15分にするには、投入から167℃に至るまでの時間を7分から11分に延長すれば、その後の成分進化のペースは同じなので、15分の192℃の浅煎りが出来ます。

この関係を応用していけば、全てのロースティングポイントを15分に収めることが出来ます。当然ですが15分・212℃の深煎りで、短時間焙煎・低温短時間焙煎・15分低温焙煎は一致します。

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以上が今までの概略ですが、短時間焙煎と低温焙煎の違いは、投入から167℃に至ったときの釜の内部温度が、短時間焙煎が200℃以上になっているのに対し、低温焙煎は180℃と20℃以上の差があるということです。

このことは、短時間焙煎では釜の内部温度が高いため、豆の表面温度を167℃から192℃前後まで余裕をもって上昇させることが可能となりますが、低温焙煎の釜の内部温度では、通常の焙煎機では4分以内に192℃前後までもっていくのは不可能になります。

これを可能とするためには、投入量を減量し、焙煎機の火力を増やして対応するしかありません。

では、火力を具体的にどれだけ増やせばよいか?という課題に突き当たります。

幸い、富士ローヤルの場合はチップノズルを埋め込み、バーナーを一本づつ増やすことが出来るため、この検証が可能になります。

僕の焙煎機の場合、最初のバーナーの本数は確か12本だったと思いますが、これもオプションでオーダーしたもので、当時の5K釜のバーナーの本数は定かではありません。

1本のパイプに4個のバーナーを取り付け、3本のパイプで合計12本のバーナーです。

これにさらに両サイドにパイプを設置して、それぞれに4本のバーナーを取り付けて、合計20本のバーナーに変更しました。

このことによって、容易に4分以内に192℃に到達することが出来、カップの向上を確認できました。

これを釜の内部温で表現すれば、180℃であった内部温度が3分前後で240℃前後に至り、その後上昇を抑え230~240℃を維持しながら、4分で豆の表面温度を192℃に至らせることが可能になったからです。

この結果に好感を得て、バーナーを増やせばもっと早く釜の内部温度が引き上げられ、カップは良くなると確信して、さらに両サイドに4本づつ計8本のバーナーを追加しました。合計で28本になります。

これはどう見ても、超過激な熱量で上手くいかないだろうと予想したとおり、カップも超過激なカップになりました。

刺激的なアフターで、飲むに堪えられません。

おそらく投入量を増やしていけば、カップは元に戻っていくと推察できますが、現状の2Kgの投入量を維持して、バーナーを減らしていきます。

追加したチップノズルの2本のピンホールの穴に瞬間接着剤を埋め込み、26本で検証します。

それでも、アフターの刺激的なカップはいっこうに改善されません。

では25本ではどうか?

それでも刺激的なカップは何ら変わりません。

では24本ではどうか?

この段階で、まさに驚くべきカップの向上が認められました。

アフターの劇的な向上がなされ、抜けるようなクリーンにカップは向上しました。

24本と25本のたった1本の差で、カップの差は天国と地獄の差になります。

勿論、23本と24本の差も劇的な差になります。圧倒的に24本の抜けるようなクリーンは23本のものより圧倒的な差があります。

カップの変化からは、20本から1本づつ足していって、23本から24本に至る劇的な変化の方が解りやすいと思います。

まさに青天の霹靂で、今までの水抜きと成分進化の温度と時間のち密な変化を探ってきたことが、火力のマジックの前では徒労のような作業に思えてきます。

これは投入量に対して一定の火力が成分進化だけではなく、水抜けも包容していることが推測されます。

投入量に対して、一定量の火力の法則があり、その火力によってカップが決定される仕組みがあるということです。

そもそもカップの決定要素は成分進化と水抜けがワンセットで、それを上手く包容した、投入量に対する火力が存在するということです。

それが23本から24本の移行でした。

そして、24本から25本に至る火力によるカップの破壊過程も、火力のマジックを思い知らされます。

これはもう、豆の組織が火力の限界に達した時の破壊過程を如実に見ることになります。

たった1本のバーナーの差でこうも変化してしまうことは、火力が焙煎の成分進化に大きく関与しているということになります。

以前、このことを旧友の焙煎仲間・郷氏(バグ珈琲オーナー)に話した時に、オーディオのスピーカーとメインアンプをつなぐ配線の興味ある話になりました。

スピーカーとメインアンプをつなぐ配線を、ある一定の長さから数メートル単位(ともに詳しい数値は忘れてしまいましたが、)でカットしていって、ある一定の長さに至った時点で、劇的に音質が向上するそうです。

配線の抵抗とか、メインアンプの出力、あるいはスピーカーの能力がぴたっと一致した一瞬なのでしょうが、このことは以上の火力とカップの関係を体験すると、如実に想像がつきます。

今までの懸案であった諸法則は、この限界火力の法則によって解決が出来る予感がします。

それは、限界火力の法則が水抜けにも大いに寄与しているとすれば、現段階の低温焙煎の欠点である、風味特性の軟弱性が改善され、より輪郭がはっきりとしたカップを作り出すことが出来ます。

水ぬきの段階をもっと前倒しして、速い段階から成分進化の段階に移行できるからです。

早ければ早いほど、成分進化の時間が多くなり、十分な成分進化が達成できるからです。

しかし、水が抜けていない段階で釜の温度を上げ、成分進化の段階に移行することは、豆の中心部に水を残して、強引に煎り上げることになり、カップは短時間焙煎の欠点であるアフターの歪さが出てしまいます。

これでは、低温焙煎を選択した意味がありません。

このジレンマを高次元で解決してくれるのは、火力を極限までアップした限界火力であるわけです。

速めに成分進化に移行しても、火力のおかげで、中心部に残った水も吹き飛ばしてくれる結果、成分進化も十分になり、カップが劇的に向上するという構造が見えてきます。

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24本から25本に至るカップの劇的な変化を検証したい方にサンプルを送ります。少し古くなってしまいましたが、カップのひずみは理解していただけると思います。

焙煎機の火力増量の限界点がカップから納得いただければ幸いです。

2種類(ブラジルのコモディティ・グアテマラのUTZ)で、共に25本バーナーのよるものです。

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