短時間焙煎➁

2017年にプレゼンテーションされたSCAJの「スペシャルティコーヒー市場調査2016要約」
(http://www.scaj.org/wp-content/uploads/2017/07/Specialty-Coffee-Market-Research-2016.pdf)

に焙煎についての興味深いレポートがありました。

【目次 8.焙煎】
●会員の取扱商品の中心帯は中煎りが79%で深煎りが14%、浅煎りがわずか4%にすぎません。(浅煎りが取扱商品の中でメインである会員が4%!)

●会員の取扱商品の構成比は、ほとんど中煎りと深煎りが主体(86%)となって、残りの浅煎りがわずか14%に過ぎない構成になっています。

●消費者の焙煎の好みの変化については、浅煎りが増えていると好みは変わっていないが拮抗しています。

スペシャルティコーヒーロースターを目指してこの業界に参入して、日々努力している方であれば、上記の3点の結果から、日々感じている「理想と現実の乖離の葛藤」を痛切に感じると思います。

僕も実際販売していて、ほとんどの消費者は「酸味がないコーヒー」を求めてきますし、特にコーヒー好きを自負する消費者ほどこの傾向は強く感じます。

かたくなに酸を否定することが、まるでコーヒー通を自任しているかのような錯覚に囚われてしまっているお客様があまりに多く、こういった方々にどうスペシャルティコーヒーの酸の素晴らしさを伝えていったらいいのだろう!?と日々葛藤しています。

一般的な消費者のこのような嗜好から、会員の取扱商品が当然中煎りから深煎りがメインにならざるを得ないのは当然の結果だと思いますが、その一方,スペシャルティコーヒーの酸の素晴らしさを実感し、感動するコーヒーを我々が提供できていない結果でもあると思います。

スペシャルティコーヒーの素晴らしさを一般消費者の方々に実感し、感動していただくには、素材の原料生豆の質が重要なのは当たり前ですが、それを活かすのも殺すのも焙煎であり、焙煎技術の構築こそがまずもって重要ではないでしょうか。

そして【目次13 顧客教育  、14スペシャルティコーヒー業界の強化課題】には一般消費者に対するスペシャルティコーヒーの啓蒙活動の必要性が強調されているように、僕を含めて多くの読者の方も日々切実に感じている課題です。

しかし、スペシャルテイコーヒーの素晴らしさを再現できる浅煎りの焙煎技術が構築出来ていないがために、コーヒー教室や店頭での啓蒙活動に二の足を踏んでしまい、積極的に活動できない方が多いのではないでしょうか?

自分の焙煎技術の未熟さに引け目を感じていて、店頭販売やコーヒー教室でいつも内心はオドオドしながら販売活動していた自分を思い出します。

上記の(●消費者の焙煎の好みの変化については、浅煎りが増えていると、好みは変わっていないが拮抗している。)ーーというレポート結果の真相は消費者の従来の志向と、一生懸命啓蒙活動をする僕たちの結果の現われだと思います。

何はともあれ、我々ロースターが浅煎りの焙煎が構築出来て、スペシャルティコーヒーの素晴らしさを積極的に伝えることが出来れば、消費はもっと拡大していくと思います。

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 短時間焙煎=通常の焙煎で浅煎りが美味くできないのは、焙煎時間が中煎りや深煎りより短くなって、水抜けが不完全になってしまうためでした。

これを改善するためには、投入量を減量するか、あるいは時間を延長するかで改善できました。

投入量を減量して水抜けが解決した場合は、ブライトでとても印象ある風味特性を出せても、焙煎時間そのものがカップの合成に大きく関与するため、個性が強すぎて真っ当な飲料として飲みづらい面が出てきました。

そして、時間を延長して解決した場合、上記の欠点も解決されより好ましいものになりますが、そもそも短時間焙煎そのものが高温での焙煎処理のため、クリーンやスイートを実現できても、マウスフィールに違和感が出てきてしまう欠点を内包しているという欠点がありました。

このマウスフィールの欠点を解決する方策が模索されて、焙煎の工程を明確に2段階に分け、前半は低い温度で、後半は高い温度で焙煎するノウハウの着想が出てきます。

 

短時間焙煎➀

【短時間焙煎】

現在、スペシャルティコーヒーの焙煎を標榜するほとんどの焙煎業者が採用している焙煎メソドです。

、、というより、焙煎の定番のようなメソドであって、何もスペシャルティに特化した焙煎ではなく、ごく一般的な焙煎メソドです。

1990年代の後半、アメリカのセカンドウェーブのスペシャルテイコーヒーロースターの焙煎ノウハウが伝播しだしたとき、ピーツやスタバの、あの深い焙煎をものの12分~15分内で焙煎を終了しているという、驚きを”高温短時間焙煎”と呼称しました。

当時の僕たちは、国産の小型焙煎機で中煎りを15分~18分前後に収めるのが精いっぱいでしたので、そのような呼称になりました。「これがスペシャルティコーヒーの焙煎ノウハウだ!」と当時は感動しました。

しかし、実は昔から、我が国においても真っ当な焙煎業者も実践していたノウハウです。

結果として、我が国の閉鎖的な業界に風穴を開けたのはまさに黒船ならぬ、アメリカのスペシャルティコーヒーだったわけです。

プロバットを代表とする、熱カロリーが高く排気効率が良い、温度管理がキッチリとできる中・大型の焙煎機に、比較的少量の豆を投入することでこの焙煎ノウハウは真価を発揮します。

(このプロファイルをトレースする場合、豆の表面温度を計測する温度センサーの設置位置が極めて重要です。以前のブログをご参照ください。)

イメージとしては上のプロファイルの様に、過度にならない程度に強い火力で一気に焼き上げるイメージです。14分で豆の表面温度が207℃で終了するフルシティローストです。

投入からボトムまで落ち込んだ豆の表面温度を、強い火力で一気に押し上げながら、水分を抜いていき、大まかに水が抜けて成分進化の段階に至るころファーストクラックが始まりますが、その手前くらいから火力を抑えて余熱で煎っていきます。

具体的には、投入から1分~1分30秒くらいにボトムに落ちたら、豆の表面温度がそこから一気に駆け上がって、投入から7分頃には豆の表面温度が167℃前後に至り、9分に182℃、10分に187℃、11分に192℃、12分197℃、13分202℃、14分207℃、そして投入から15分で212℃に至るペースがポイントです。

投入から7分で167℃に至って、8分に176℃、9分に182℃に至る頃が水抜けの後半と成分進化の前半が重なり合う頃で、そこから1分ごとに5度上昇させることが成分進化を適正にするペースになります。

強い火力で水分を飛ばしていくことは、豆の表面から強引に水分を抜いていくことで、結果として豆の芯に水分を残したまま終了してしまうリスクが甚だ大くなりますが、固く閉ざした生豆の組織をこじ開け、水分を飛ばし、焙煎時間の制約内に焙煎を完了させ、なおかつ結果として水抜けと成分進化が完了しているという条件をクリアーするためには、このペースが必然となります。

デザインの黄金比のごとく、水抜けと成分進化を完成させた焙煎の黄金比のペースといってもかまいません。

このペースで焙煎しても水抜けが悪いカップなら、焙煎機の容量や火力に対して投入量が多いためで、投入量を減らすことによって、水抜けは向上しカップは向上します。投入量を減らしながらカップを検証していけば、その焙煎機の容量にピッタリの投入量を導くことが出来ます。

また、投入量をそのまま維持して、焙煎時間を延長することによっても水抜けは改善されますが、水抜けや成分進化の次元だけではなく、焙煎時間そのものもカップを左右するため、時間の延長はお勧めできません。15分以上の焙煎のカップは暗くなって、爽やかさやが欠けてきます。

減らした投入量に応じて、投入温度も落として投入します。最下位のボトムと7分後の豆の表面温度が167度前後とするのがポイントで、そのままグラフの豆の表面温度のラインをトレースできればOKです。

焙煎はあくまでも豆の表面温度の進行を管理するのがその本質です。排気温(釜の内部温度)の進行管理は豆の表面温度の進行を管理する手段にすぎませんので、その時の状況に応じて臨機応変に対応します。

うまくいかない場合は、投入温度と初期の火力を調節することによって何回かトライすれば同じラインをトレースすることが出来るようになります。諦めずにトライしてください。

僕の改良型の国産焙煎機(フジ5㎏)に生豆2Kgを投入して焙煎したものを厳密にカップをしていくと、14分207℃のフルシティから15分212℃のフレンチのカップは素晴らしく再現されます。

ところが、10分187℃・11分192℃・12分197℃・13分202℃のライト・シナモン・ミディアム・ハイはレスクリーンでアフターが悪くなります。

この結果、同じ投入量で時間が短い浅煎りや中煎りの領域ではまだ水抜けが不完全であること、そして時間が延びる深煎りではカップが良くなるになることから、水抜けは前半だけではなく、後半の成分進化の過程も含めて終了までの焙煎の全領域でなされていると判断できます。

先ほどの深煎りと同じように、投入量を減らしていって、カップを繰り返せばそれぞれの焙煎度に応じたベストな投入量を導き出せますが、ここでも焙煎の時間がカップにもたらす影響が出てきます。

焙煎時間が15分を過ぎていくと、爽やかさや明るさがスポイルされて暗くように、今度は逆に焙煎時間が15分から短くなっていくと、明るさやフレバーが際立ってくる反面、ストラクチャが欠けてフラットになっていきます。

余韻・奥行きのある立体的なカップから平坦なカップになってくるわけですが、その反面明るさや爽やかさ、そしてフレバーの印象はよりシャープに際立ってきます。

しかし、水抜きがある程度できた短い焙煎時間の浅煎りは、最初の印象度は強くインパクトはありますが、いくら何でも、これでもか!といった強い印象の強いカップで、カッピング評価に適していても、毎日飲む通常の飲料としては失格です。

この結果から、投入量はそのままで、焙煎時間を延長していった方がカップはより好ましく向上していきます。

短時間の浅煎りの、明るさ・爽やかさ・フレバーもスポイルされず、かつ落ち着いた完熟味を再現できる14~15分の浅煎りの方が断然魅力を感じます。

ロースティングプロファイルからの浅煎りは焙煎時間が短く、深煎りは焙煎時間が長いという暗黙の思い込みが、浅煎りや中煎りは時間延長によってカップが向上するということになかなかたどり着けなかった原因であったわけです。

 

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以上、通常の短時間焙煎のプロファイルを示し、その実践をいろいろ試みてみましたが、この短時間焙煎の最大の欠点はクリーンと成分進化が実現できても、マウスフィールが歪であるという不思議な欠点があります。

クリーンなのにマウスフィールが悪い???

これは、水抜けや成分進化が適正になされても、短時間焙煎が投入の初期段階から、強引な火力によって焙煎を進行していくがために、水が抜ける前に、”豆の表面焼け”の欠点がカップに現れてくるからです。

このような現象が起こるのは、

現在のスターバックスコーヒーのカップはこれを典型的に表現しますし、残念ながら日本のトップスペシャルティの多くの市販のコーヒーも同じカップを表現します。

この欠点を避けるためには、投入時点の火力を極力控えていくことが必然となります。ここから焙煎を2段階の分けて、前半を火力を抑え、後半からは火力を与えていくノウハウが生まれてきます。